31-16
「さて……残りはシルヴィだけか……」
地下の図書館から出た俺は、廊下を歩きながら六つあるうちの五つまで埋まったスタンプシートを見る。
先程、大地の女神様に彼女の居場所を尋ねたところ、「自分で探しなよ。まぁ、彼女のことが好きならその場所にも検討がつくんじゃないかな」と言われてしまった。
「……シルヴィの居そうな場所……そういえば、俺ってシルヴィと二人っきりになる機会って、ほとんど取ってなかったよな……」
普通の恋人同士なら、大切な人と二人っきりで過ごす機会をかなり設けているはずだ。それなのに、俺ときたら週に2回あるか無いかだ。今更ながら少ないと感じる。
彼女への思いが消えた訳じゃない。
いつまでも彼女の傍に居たいという欲求は今も健在だ。
「……なら、なんで俺は彼女の居場所に検討がつかないんだろうな……」
悩んでも悩んでも、彼女の居場所に検討がつかない。いや、正確には、目の前でその予想が外れて自信を失ったのだ。
屋上にある庭園。
俺はきっとここにいると思ってこの場所に来た。だが、彼女の姿はない。
ここは思い出深い場所だ。
初めてハナさんと出会った日、シルヴィはここで俺を待ってくれていた。
「……ここじゃないってんなら、自室か?」
そう考えて庭園を出ようとした瞬間、いきなり風が吹いて、鮮やかな花弁が目の前で宙を舞った。
「この花……どっかで……」
花弁を1枚手に取った優真はそう呟くと、目をはっと開き、庭園から急いで中に戻った。
◆ ◆ ◆
「やっぱり嫌われちゃったのかな……ここ最近、ずっとユーマさんに避けられてるし……このまま悪化してユーマさんに捨てられたらと思うと…………やっぱりやだよ……私、今の生活好きなの。お祖母ちゃんはいないけど……毎日皆とわいわいするなんて、昔じゃ考えられなかったもん。……だから、ここを出ていきたくないよ……」
「勝手に出ていかれるとこっちが困るんだけど」
その聞き覚えのある声に、体育座りをしていたシルヴィは声のした方に振り返った。
「……ユーマさん? ……なんでここに……?」
「婆さんに呼ばれてきたんだよ。……俺だってまさか婆さんの墓にいるとは思ってもみなかったからな……」
優真の様子をよく観察してみれば、平気そうに笑ってはいるが、息を切らしているのが見てとれた。そして、彼の言葉がシルヴィに驚きをもたらした。
「お祖母ちゃんが……ですか? そっか……そうだよね……毎日ここで愚痴っても何にもなんないもんね。……ちゃんと謝れ。そういうことだよね……」
シルヴィは祖母の墓に向かってそう言うと、優真の方を向いて立ち上がった。
「すいませんでした!! 私、万里華さんに保育士という職業がないことを聞かされて……ずっとユーマさんに言うことが出来ませんでした!」




