4-24
目を覚ますと、そこは俺が借りている家の天井だった。
木貼りの天井に、揺れるランタン。今の今まで木に囲まれた空間にいたはずだ。
……先程までのことは夢だったのだろうか?
起き上がろうと体を起こした時、脇腹の辺りに痛みを感じた。
そういえば、あばらが折れたんだったか。……ということは、さっきのは夢じゃなくて、現実だったということだな。
その時、視界の隅に一人の人物が入った。
戸を開けて、水の桶を持っていた少女は、その桶を床に落として、水をぶちまけた。
俺の方を信じられないとでも言いたげな目で見つめてくるシルヴィ。彼女は目を潤ませてこちらの方へと駆け寄ってくると、いきなり抱きついてきた。
「……良かったです。目を覚ましてくれて……血だらけになって、意識もない状態でライアンおじさんに連れられてきた時は、本当に死んじゃうんじゃないかと、心配で心配で!」
「……ごめんな、心配かけてしまって」
涙を流しているシルヴィに俺は、そう言うことしか出来なかった。
なにかしら気の利いた言葉をかけてやれないことがもどかしかった。
どうやら俺は、あの戦場から生き延びることができたらしい。
…………あれ?
「……なぁ、俺が意識を失ってから、いったい何があった?」
俺は、先程語ったシルヴィの言葉に一つ違和感を覚えた。
「確か、あの時ライアンさんは、逃げ切ってから笛を鳴らすって言って、皆と一緒に村に帰ったと記憶してるんだけど」
シルヴィは、そこまで聞くと俺の知りたい情報がわかったようだ。
◆ ◆ ◆
「…………というわけです」
説明を終えたシルヴィはその言葉で締めくくった。
彼女の話を聞く限り、まず、俺がミストヘルトータスを倒したそうだ。
とはいっても、俺自身には、そんなおぼえはなかった。
どうにも、あの時の記憶が曖昧になってるんだよな~。
あの時は、ハルマハラさんの腕が切断されてから、目の前が真っ赤に染まって、意識が朦朧として……気がついたらここにいたんだ。
なんでも、俺がライアンさんたちと別れた後、ライアンさんが、「やっぱりあいつを見殺しになんか出来ない!」と言って隊列を離れて助けに向かったそうだ。
戻っている途中に霧は晴れ、何が起こったのかわからないまま、ただ、俺の無事を祈って森の中を走ったとのこと。
そして、俺と別れたあの地に戻った時、そこには、左腕を切断されたハルマハラさんと、血まみれで気を失っている俺がいた。
ハルマハラさんは、肩を貸そうとするライアンさんに、自分の足で動くと言って、襲いかかってくるモンスターたちを、レイピアで串刺しにしていったらしい。
一方、俺はというと、出血量と内臓の損傷がいくつかあったらしく、ライアンさんが治療魔法というこの世界には実在する魔法で治してくれた。
というのがあの後、起こった全てで、結局俺は1週間、目を覚まさなかったそうだ。
正直言って、ライアンさんが治療魔法の使い手だと知ったことの方が、自分が生きていたことより、衝撃的だった。




