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軽い痛みを感じたことで、自分の額を手で触ったホムラは、正面を見た。そこには、デコピンをした直後の優真がホムラの方を見ていた。
「……前に命を狙われた件は俺が直接罰を下した。これで俺はホムラを許す。証人は大地の女神様と鉄の女神様だ」
「オーケー、ユウタン君がそれでいいって言うんなら、証人になってあげよう。神だけどね」
「我も、貴様には少しだけ罪悪感がある……と言えなくもない。だから、今回は貴様の思惑に乗ってやろう。証人とやらは引き受けた!」
「そういう訳だ。俺は誰がなんと言おうとホムラに感謝している。その事実は変わらない。新しい道を啓示してくれたのは、ホムラ以外の何者でもないからな。もし、ホムラに保育士という職種をこちらの世界にも作るという意見が貰えていなかったら、俺は万里華達や女神様との仲を更に悪化させて、皆の前から居なくなっていたかもしれない。……だから、日頃の感謝も込めて、このブレスレットをホムラにあげたい。……どうか受け取ってくれないか?」
その時、ホムラの目から涙がこぼれ落ちた。
「……本当にいいのか? ……私はダンナの命を狙ったんだぞ? それをこれだけで……」
「ホムラ。何度も言わせるな」
優真の目からは怒りという感情が感じ取れない。
その言葉や行動が自分のためにしてくれたものだとホムラにもわかっていた。
彼に出会ったことで、自分の運命が大きく変わったのは間違いない。信用できなかった国の大人達は、彼が動いたことで自分達を敵視することがなくなった。
戦闘以外はこうして髪で隠している左目の傷も、彼は惨めだと言わなかった。殺して奪うことでしか、自分達の存在価値を証明することが出来なかった自分達に、別の方法を与えてくれた。
(……なんだろうな……あんなに皆の元に帰りたいって思ってたのに……もうちょっとだけダンナの傍にいたいって考えちまった……)
例え、これからどんなことをしても、自分が犯した罪は消えない。それでも、彼は自分達を見捨てないと言ってくれた。共に戦い、死んでいった者達のために、涙を流してくれた。
すごい存在だと思う。尊敬できる存在だと思う。
だから私はダンナのことが好きになったんだと思う。
「ありがたく頂戴するよ、ダンナ」
恭しく頭を下げたホムラは目の前にある箱から、ブレスレットを取り出して左の腕にはめた。
(そういえば……いつだったか、アオイが言ってたな……好きな人から指輪をもらって幸せに暮らしたいって……)
今はブレスレットだ。でも、今はそれでも嬉しい。だけどいつか、彼に見合う女になれたら、今度は自分が彼に指輪を贈ろう。
そして、その時にちゃんと伝えよう。
ダンナのことが好きだ。と。
裏話:ちなみにホムラが図書館にいた理由は勉強するためらしいです。そしたら、珍しいものに興味津々の女神二人に捕まって文字の汚さや誤字にダメ出しされてたみたいです。




