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「えっ……」
彼女がブレスレットを箱に戻して、俺の方に返してきたことで、さすがの俺でも泣きそうになった。
色が好みじゃないとか、腕にはまらないとか、婚約指輪に比べて安そうとか言われるのまでは推測していたのだが、まさか受け取る意思すらないとは……もしかして、年頃の少女にブレスレットは悪手だったのか?
メイデンさんのと同じネックレスや、ピアスとかにすれば良かったのか?
「ごめん……女子にプレゼントする機会って今まであんまり無かったし、万里華は大概なに渡したって喜んでくれるから、アクセサリーならなんでもいいって思ってたよ……気が回らなくてごめん……」
「ち……違うんだ! 別にダンナからのプレゼントが気に入らなかった訳じゃないんだよ……ただ……」
「……ただ?」
言いにくそうにしていたホムラは、口をつぐんだ。彼女の視線から読み取れたことは、俺というよりも両隣に座っている神様達がいるから言いにくいんだということだけだった。
「……私にはダンナからこんな大層な物を受け取る資格なんてないんだ。ダンナは筆頭眷族で、私はただの信仰者なんだぜ? 私なんかがこれをダンナからいただく訳にはいかねぇよ……」
ホムラは素直に受けとりたいという気持ちを必死に押さえこんで、優真にその言葉を伝えた。
本当はこれを見た瞬間、心が踊り出しそうになるほど嬉しかった。物心ついた頃には地獄のような場所にいたし、『救世の使徒』として活動を始めてからも、そういう機会は作らないよう定めていた。だから、このブレスレットは異性から初めてもらったプレゼントなのだ。
心の奥底から湧き出してくる気持ちを押さえつけるのは苦しい。だが、自分は絶対に許されざる罪を犯している。……だから、これはもらえない。
「……俺がいつ立場なんか気にした?」
「確かに……ダンナは寛大な方だから気にしないかもしれない……でも、私は一度ダンナを本気で殺そうとしちまった……。本当は、ダンナに背神者の烙印を押されて……殺されたって仕方ないんだ……だから、これはもらえない……」
少女の顔には、悲壮感が漂っており、あの時のことをずっと後悔しているように見えた。
「はぁ……そうだったな。お前は一度、知らぬとはいえ、眷族筆頭の俺に剣を向けたんだったな……」
ため息をついた優真が、ホムラの意見を肯定した直後、俯いていたホムラの額に指が直撃した。




