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「……そんなところで隠れてると気が散るからこっちに来なさい!」
静かだった図書館に女性の声が響いた。
大地の女神様にそう言われたことで、優真は体をびくつかせた。音もたてず、息もまったくしていなかったにも関わらず、居場所がばれた。
「僕を馬鹿にでもしているのか? この空間は僕のテリトリーだ。いくら君が隠密に徹しても、この子じゃない限り、僕から隠れ通すことなんて出来ないよ」
そう言われては、優真も出ていかない訳にはいかなかった。
「な……なんでダンナがここに!?」
本棚の陰から現れた優真の姿を見て、赤髪の少女は驚いたような顔を見せた。
「まったく……なんで隠れていたんだい?」
「申し訳ありません。ちょっとホムラを探しておりましたところ、ハナさんからここの鍵を借りたと聞いたもので……まさか、大地の女神様と一緒にいるとは思ってもおりませんでした。先程隠れていたのも、集中しているホムラの邪魔をしてはいけないと考え、用が終わるまで待っていようと思っただけです。決して大地の女神様を馬鹿にした訳では無いんです」
優真が頭を下げて謝罪すると、腕を組んでいた大地の女神はため息を吐いた。
「……なるほど、それはすまなかったね。僕の早とちりだったようだ。僕じゃ君の考えを読めはしないが、君に悪意がなかったことだけはわかる。とりあえず、そんなところに突っ立ってないでこっちに来なさい」
「よろしいのですか? 俺がいたら邪魔になるのでは?」
「ダイちゃんが来いと言ってるんだから、さっさと来たまえ。それとも我の偉大さに恐れおののいて震えて動けんようにでもなったか?」
頬杖をつきながら、こちらににやけた笑みを向ける鉄の女神にそう言われたことで、優真は彼女達の方に向かった。
「おはよう、ホムラ。昨日はありがとな。それからごめん、俺のせいで無茶させちゃったんだよな」
未だに驚いた顔をこちらに向けていたホムラに優真は昨日のことを謝罪した。
「……そんなことのために、わざわざ私を探してたのか?」
「いやまぁ……もちろんそれもあるんだけどさ。ホムラを探していたのにはもう一つ理由があって……」
そう言いながら、優真は自分の懐から1枚のスタンプシートとスタンプを取り出し、ホムラの方に渡した。




