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そこには二人の少女がいた。
「ふふっ……あなたとは決着をつけたかったよ、メイデン」
「……負けない……」
桃色の髪をまとめて三つあみにした浴衣姿の少女と同じく浴衣姿の銀髪少女が向かい合う。二人はただ事ではない雰囲気を醸し出し、本気のオーラまで出している。
一触即発の雰囲気の中、先に動いたのはハナだった。
「くらえっ!! スライスサーブ!!」
「……抜かせない……」
ハナのサーブに、メイデンは普段のマイペースな動きからは想像できないような速さで対応し、その白球を叩く。しかし、変な角度から力を加えたことで、白球は明後日の方向に飛んでいった。
「……ハナさんとメイデンさんの声が聞こえたんだけど……もしかしてここに二人いる!?」
そこにちょうど顔を出した優真が、その白球を額で受け止め、白球は床に音を立てて落ちてきた。
「ユウタン!?」
「……ご主人様……?」
卓球台を挟んで向かい合っていた二人の少女は、ピンポン玉を額にぶつけて倒れた優真の方に駆け寄っていく。
「……てて……なんか頭に……これって卓球玉? そういえばここ、日本の旅館をモチーフに改造してたんだったか?」
頭を押さえながら体を起こした優真は、落ちていたピンポン玉を掴んで、色々と自分だけで納得した。
目の前に湯上がりの少女が二人。手にはラケットを持っているとなれば、二人で温泉から上がった後に卓球をしていたのだろう。
(そこに運悪く明後日の方向に飛んだピンポン玉が、二人を探しにやって来た俺に当たったということか……)
そう結論を出した瞬間、両頬をいきなり手で押さえられ、優真は強制的に正面を向けさせられた。
「……ご主人様……大丈夫? ……怪我ない?」
そう言いながらメイデンは、顔を近付け、優真の前髪を上げ、その赤くなった痕を見続ける。
「め……メイデンさん?」
「……痛そう……ごめん……」
そう言って謝った彼女は舌を出して、その傷をいきなり舐め始めた。
唐突な意味のわからない彼女の行動に、優真はびくついて、急いで後退りし始めて、廊下の壁に背中をぶつけた。
「な……何してんの!? いきなり額舐めるとか意味わかんないんだけど!」
なぜ優真がそんなことを言うのかわからないのか、メイデンは優真の目の前で頭を傾げている。
「……? ……カリュアドスから、傷なんて唾つけときゃ治るって教えてもらってた……」
「そりゃ自分のやつでって話だ!」
「……でも、バルトスは私のような美少女に舐めてもらえるなら一瞬で完治するって言ってた……あいつを舐めるのはさすがに鳥肌立つからしないけど……」
「うん、カリュアドスやバルトスが誰かは知らんけど、そいつらの意見はガン無視した方がいいぞ。特にバルトス。だいたい傷はちゃんとした手段で治さないと痕が残るからな……メイデンさんは美少女なんだから痕が残ったら大変だよ? というかさ、俺を舐めるのには抵抗ないの?」
「……抵抗? なんで?」
「なんでってそりゃあ……俺は男だし、やっぱり嫌じゃない?」
「ご主人様なら別にいい……ううん、ちょっと違う……ご主人様だったらいい」
少女はいつもの無表情という仮面に少しだけ、口元を緩めて、優真に向けて微笑んだ。その頬はうっすらと赤くなっており、優真もそれにつられて顔が上気していくのを感じた。




