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(そんなこと……言われなくても知ってるよ……)
シルヴィがどれ程俺を思ってくれてるかなんて、傍にいた俺自身が一番わかっている。それなのに、あんな態度を取った。本当に自分は馬鹿だと思うよ。
「ああ……もちろん、シルヴィには感謝してるし、万里華やユリスティナ、他の皆にも本当に感謝してるよ。なにせ、俺みたいな奴の傍に居て支えてくれるんだからな。……だからさ、俺は君達にちゃんと応えることにしたんだ」
優真が立ち上がりながらそう言うと、万里華とユリスティナの二人は首を傾げ始めた。
優真は目の前に展開したタッチパネルを慣れた手つきで操作し始め、アイテムボックスから二つの小さな黒い箱を取り出してみせる。
それを見た万里華は、口元を手で覆って悲鳴のような声を上げる。その様子に驚いたユリスティナの目の前で優真はスイッチを押してその箱を開けた。そこには、ダイヤのついたシルバーリングが入っており、それを万里華達の方に突き出してきた。
「色々あって遅くなったけどさ……俺の婚約者になってくれた証……受け取ってはくれないか?」
手で口を押さえたままの万里華は、涙を流しながら何度も無言で頷き、その指輪を左手の薬指にはめて、うっとりとした目付きでそれを見始める。
だが、ユリスティナはそれを受け取るのを躊躇っていた。
「わ……わたくしも貰ってよろしいのですか?」
「もちろん。こう見えて俺、ユリスティナには感謝してんだよ? 外へ出てしまったシェスカを追いかけようとしてくれたんだろ?」
「……そうですが、あの時もわたくしはシルヴィお姉様にご迷惑をおかけして……」
「シルヴィが言ってたよ。あの時ユリスティナが自分をつき動かしてなかったら自分はもうシェスカや俺に合わせる顔がなかったって……。だからユリスティナ、シルヴィとシェスカを助けてくれてありがとな」
「わたくしはただ……シェスカちゃんを助けたい一心で……」
「俺はそんなユリスティナだから大好きなんだよ」
それは今まで俺が彼女に向かって言うことを躊躇ってきた言葉だった。自分がシルヴィを好きだという気持ちに嘘はない。万里華が自分を思ってくれていて嬉しい。彼女の気持ちを聞いてやっぱり彼女に対する気持ちが今も変わらないことを確信出来た。
ではユリスティナは?
ユリスティナは確かに、綺麗な金色の長髪や成長期だと思わせる慎ましやかな胸、そして守ってあげたくなってしまう幼さを秘めた美少女だ。
心優しく魅力的な所を数多く持っている。だからといって、彼女に対して恋心とかそういった感情を抱くことはまったくといっていい程なかった。彼女が俺の傍にいるのが幸せだと言ってくれるのであれば、それでいいと思っていた。
だが、森での事件が俺の中にあった彼女の評価を改めるきっかけとなった。それが変わったところで、関係性が変わることはない。
ただ、俺が彼女を好きになった。それだけだ。
「俺はユリスティナのことを正式に婚約者として迎えることにした。もちろん結婚とかはもう少し待ってもらうけどね。……だから、俺の婚約者のユリスティナには、この指輪を着けていてほしいんだ」
ユリスティナは箱にはまった指輪をおそるおそる受け取ると、そっと左手の薬指にはめた。
「ありがとう……ございます……っ。一生大事にいたします……」
ユリスティナは涙を流しながら、指輪のはまった左手を右手で包み、自身の胸に抱いて喜びを表現していた。




