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「すごい……すごすぎるよ優真君!! 君は私の期待を良い意味で裏切ってくれたね!」
ちゃぶ台を叩いて、興奮したように立ち上がった少女。その瞳は爛々と輝いており、高笑いまでし始めた。
その傍には、驚いた表情のまま、固まっている白い翼を生やした女性がおり、彼女は今の出来事を映した画面に視線が釘付けになっていた。
「あ……あり得ません。あり得ませんよ、あんなの! いくら眷族といってもおかしすぎますよ女神様!」
「落ち着きなよミハエラ。喜ばしいことに、私は彼に何もしていないんだよ。確かに、重ねがけは薦めたが、それは単なる危険な賭けを提示しただけに過ぎない。決めたのは彼だ。まぁ、私は信じていたけどね」
「……そう言ってますけど、女神様だって100倍と化した一撃でも倒れなかった時、世界の終わりみたいな表情をしていたじゃないですか」
「あ……あれは、見たかったアニメがあって、それを録画するのすっかり忘れてたことを、さっき思い出しただけです~。ちゃんと信じてました~」
「はいはい。とにかく、優真様が勝ったことは喜ばしいことですね。……ただ、これ以降、10000倍まで全ステータスをはね上げられるようになりましたが、……どうしますか? 少し手直ししますか? いくらなんでも強すぎますよ」
ミハエラの素っ気ない態度に少しだけムッとしながらも、ミハエラの質問に答える。
「別にいいじゃないか。優真君は何も知らないでやったかもしれないけど、あの時、彼が生き残ったのは奇跡に近いよ。何せ、元々20分の1で成功する賭けを、8000分の1という絶望的な賭けにしたんだ。だというのに成功させちまったんだぜ? これなら、それくらい許してやってもいいんじゃないかな。後先考えずにやったんだろうけど、結果的には良い結果になって良かったよ」
「……わかりました。そのように通知させていただきます」
女神は、ミハエラに「よろしく頼んだよ」と言うと、ブラウン管テレビの方を見た。そこに映っているのは、力を使ってぶっ倒れた優真の姿だった。
モンスターは塵と化し、その巨駆はどこにもなかった。
(あの女め、自分につながる証拠を消しやがったな)
「これからも期待してるよ優真君。だが、まずはその傷ついた体を癒すんだね」
画面に向かって声をかけ、彼女は今回の事件を引き起こした者のところへと行った。
◆ ◆ ◆
「…………まったく……新人の癖に余計なことをしましたね」
ミハエラは女神と入れ替わりで入ってきた白い翼が生えた女性に向かってそう言った。
「申し訳ありませんミハエラ様。……ただ、彼の力になりたくてーー」
「分かっていますよ、それくらい。しかし、天使の力を勝手に行使することは、原則禁じられています。あなたが確率操作をやらなければ、こちらは多大な被害を被っていたでしょう。しかし、あなたを許せば他の者に示しがつきません」
「………分かっています。どんな罰でも、甘んじて受けます」
「本来であれば、天使の地位剥奪の上、永久投獄でしょうが、今回はことがことですし、新人であることも考慮し、天使長の立場であなたを執行猶予にします。しかし、あなたと交わした約束を半年間延長します。……何か言いたいことはありますか?」
「ありがとうございます、ミハエラ様!!」
彼女は嬉しそうな顔を見せ、頭を下げた。
「それではもう下がりなさい。これから半年間、私の下で仕事をするのですから、今日はゆっくり休んで力を回復させなさい、天使マリカ」
マリカと呼ばれた天使は、顔を上げ、もう一度お礼を言ったあと、その場から姿を消した。




