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「……子ども達と遊んでるとさ、変なことで悩んでる自分があほらしくなって……無邪気な笑顔を向けてくるあの子達に、辛気くさい顔を向ける自分がバカらしくなって…………本当に子どもの力ってすごいよ。だって……いつの間にか笑顔を浮かべるのに苦労していた俺を笑顔にしてくれたんだ……。そんな俺にばあちゃんが言ったんだよ。『また来んしゃい』ってさ……」
それが俺の原点。保育士になろうと思ったきっかけだ。あの日がなければ、父さんの死を受け入れることもなかっただろうし、俺が保育士になると言うことはなかっただろう。
もちろん、それからも毎日のように通った。
保育士という職業が決して楽ではないということも知ってる。でも、子ども達の笑顔に触れる楽しさを知ったら、その道を選択する以外の答えは、俺になかった。
全てを話し終えてホムラの方を見ると、彼女は涙を流していた。岩の上に座り、声を押し殺して静かに泣いていた。
「ダンナも辛がったんだなぁ……うぅ……」
「……ありがとな……さすがにそこまで泣いてくれるとは思ってなかったけど……」
涙声で同情してくれる彼女に、感謝の言葉を告げると、彼女は目元を腕で拭った。
「よっしゃ、決めた!!」
「……何を……?」
立ち上がったホムラが、お湯に肩まで浸かっている俺を見ながら力強く何かを決意した。だが、彼女が何を決意したのか俺にはわからない。
ただ、彼女の表情は楽しそうな笑顔だった。
「私も保育士になる! ダンナと一緒に保育士を目指すよ!」
目を輝かせた彼女を見ると、同情とかその場かぎりの嘘という訳では無さそうだった。
子どもが夢を見つけた時のようなキラキラした眼は、現実を知った大人にはまぶしいものだった。
「……無理だよ……保育士は俺が住んでいた世界にしかないらしい。なりたくてもなれないんだよ……」
その言葉が口から出た瞬間、俺は自分を殴りたくなった。子どもの夢を無理と言って諦めさせるのは、俺がなりたくない大人だ。しかも、彼女は俺の話を聞いたことで、保育士になりたいと言ってくれた。俺に彼女の夢を潰す権利なんてない。
「……だったらさ……ダンナが作ってくれよ」
「…………は?」
その意味がわからない発言に、俺は開いた口が塞がらなくなった。




