30-7
その人は俺の祖母で、優しい笑みをこちらに向けていた。
それでわかった。この子ども達が俺の昔通っていた保育園の園児で、先程の女性が保育士であることに。
先程の女性保育士から事情を聞いた俺のばあちゃんは、俺を心配して、とりあえず保育園まで連れていってくれた。
正直、今にも逃げ出したい気分だったが、そんな気力はどこにもなかった。
訳がわからないまま、懐かしい保育園につき、先程の女性保育士になんかの部屋に連れていかれ、そこで待つように言われた。訳を聞こうにも、その女性は足元にやって来ていた子どもと共にどこかへ行ってしまい、結局何も聞けなかった。
しばらく黙って待っていると、ばあちゃんが来た。
「待たせたね~、優真ちゃん。いや~大きくなったね~父さんの葬式以来かな?」
「…………」
「……なんであんなことしたん?」
にこにこと笑顔を向けるばあちゃんに、俺は何も言えなかった。それでもばあちゃんは、俺が口を開くまで待とうとしてくれた。
「……嫌なことあった?」
「…………ねぇばあちゃん……」
「……なんね」
「俺さ……父さんに会いたいんだ……ばあちゃん色々知ってるでしょ? どうやったら父さんに会えんの?」
涙をこぼしながらそう言うと、優しそうな顔だったばあちゃんは驚いたような表情を見せた。次の瞬間、隣に座っていたばあちゃんは俺を抱きしめて、その目に涙を浮かべ始めた。
「……ずっと辛かったんだね……こんなになるまでずっと一人で抱え込んでたんだね……」
そのぬくもりが心地よくて、いつの間にか俺は大声で泣いていた。
「……落ち着いた?」
目の前に置かれたホットココアを飲みながら、その質問に頷いた。
「……俺、どうしたらいいかな?」
「…………優真ちゃん、ちょっと外で子ども達と遊んできなっせ」
考えているような仕草を少しだけ見せたばあちゃんがいきなりそんなことを言い始めた。
「えっ……なんで?」
「いいから、いいから」
いきなりそんなことを言われても頭が追い付かない。それくらい唐突な進め方だった。飲みかけのホットココアも取り上げられ、訳がわからないまま、1階に降りていくばあちゃんを追いかけた。
連れてこられた場所は園庭で、そこでは子ども達が自由に遊んでいた。三輪車に乗ったり、おいかけっこをしている子ども達。俺は子どもと遊ぶつもりはないから、ばあちゃんに抗議しようとしたのだが、その前に女の子が近付いてきて、俺の存在をばあちゃんに聞いてきた。
「このお兄ちゃんがね~皆と遊びたいんだって」
「はぁ!? そんなこと言ってないし!!」
「しょうがないな~、あーちゃんが遊んであげるね」
「いや、俺はーー」
どんなに否定しようと思っても聞く耳を持たれず、結局そのまま強引に連れていかれた。
もちろん、無理に振りほどくことは出来た。でも、俺の手を握る小さな手を拒むことなんて俺には出来なかった。
子ども達は強引だ。
自分のやりたいことを優先させようと、俺に自分の意見を押し付ける。
子ども達は自分勝手だ。
やりたくないと怒鳴ると、いきなり泣き始めようとする。
振り回されて、おいかけっこしたり、かくれんぼしたり、三輪車を後ろから押してあげたり、勝手に花をちぎってプレゼントしてくるし、「また明日も遊ぼうね」と勝手に約束を押し付けて帰っていく。
最初は嫌で嫌でたまらなかったのに、いつの間にか俺は、手を振って帰っていく子ども達に、笑顔を向けて手を振り返していた。




