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……ぶつかった。彼がいた場所にミストヘルトータスが突っ込んだ。しかも、彼は避けようともしなかった。運良く生きていると望むことすら、憚られる程の攻撃だった。
…………なぜ止まった?
万に一つも勝ち目がないと諦めたのか?
最後、彼が発した覇気は、炎帝と呼ばれた男とよく似ていた。
あれほどの覇気を発したにもかかわらず、諦めてしまったというのだろうか?
せっかく体を張って助けたというのに、……これでは、何のために左腕を失ったのかわからなくなる。
……前を見たくない。
目を開けば、Sランクモンスターに蹂躙された若者の死体があるのだろう。
無惨な死体に決まっている。
「……ウグァァァ」
呻き声が聞こえた。
明らかに人間のものではない呻き声。しかし、他のモンスターは先程彼が発した覇気で全員逃げ出していた。一匹もいなかったのは、霧が晴れているお陰でよくわかる。
……では、いったい誰が?
ハルマハラはゆっくりと目を見開き、その信じられないような光景を目の当たりにする。
先程よりも凄まじい回転が加えられ、威力の増したミストヘルトータスのスピン攻撃。それにもかかわらず、目の前にいる青年は片手一本で受け止めていた。
Sランクモンスターの一撃を素手で受け止めるなんて芸当、世界に20人と存在しないSランクの冒険者でも、なかなか出来はしないだろう。
ましてや片手で受け止めることが出来るのは、上位5人のやつらだけだろう。
だというのに、それをやってのける青年にハルマハラは恐怖を覚えた。
◆ ◆ ◆
回転が止まり、ミストヘルトータスが四肢や顔、尻尾といった部位を甲羅から出したのを見て、優真は甲羅から手を離す。
「…………くたばれ、化け物」
その言葉が口から発せられた直後、地面を蹴った優真は、拳を振りかぶり、ミストヘルトータスの顔面を殴ろうとするが、それは、急いで体を全て引っ込めたミストヘルトータスによって空振りに終わる。
しかし、優真の攻撃はそれで終わりではなかった。
甲羅の頑強さに自信があるミストヘルトータスは、このまま、時が過ぎ去ることを望んだ。あの一撃を片手で凌がれては、もう打つ手がなかった。しかも、さっきの一撃は今までと比べ物にならない程の火力だった。
しかし、どんなに強い攻撃をされようが、この甲羅が有る限り、自分を傷つけることなどあり得ない。なにせ、この甲羅は数千年の間、かすり傷一つついたことがない代物だからだ。
ここにこもってさえいれば、そのうち向こうが先に倒れる。
しかし、その考えは甘かったと言うしかなかった。
優真は何の躊躇いもなく、甲羅に向かって拳を構えた。足に力を込めて、一瞬でミストヘルトータスとの距離を詰める。
刹那、優真が渾身の一撃を放つ。
優真の一撃はミストヘルトータスを、その自信や誇りごと木っ端微塵に粉砕してみせた。




