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30-2


 保育士がないと知らされたあの日から二日の時が経った。その間俺は一度も部屋を出ることはなかった。食事もとってない。彼女達にも会っていない。

 わざわざ部屋の前まで来てくれたけど、彼女達と話をすることはなかった。

 冷たくしてしまった。俺を心配して、部屋の前にまでやって来てくれた優しい人達。

 彼女達は一切悪くない。彼女達に罪はない。

 そんなことは百も承知だ。……それでも、俺はこの場所から動けないでいた。


「……ねぇ、ばあちゃん……俺はどうすればいいかな……」

 布団にくるまりながら、俺は遠き日の思い出に存在した人の名前を出してしまった。

 俺が保育士になりたいと思ったきっかけ。

 優しくて大好きだったばあちゃん。いつもニコニコしていて、俺が尊敬していた人だ。

 おじいちゃんが亡くなって、今は職も辞めて、俺達の負担になりたくないからと、自ら老人ホームに入った。

 ばあちゃんみたいな保育士になったと、一番に報告したかった。……まぁ今となっては無理な話だが……。


「……お兄ちゃん、お風邪治った?」

 いきなり暗かった部屋に明かりがさし、幼い少女が少し開いた襖の隙間から顔を覗きこませる。

 その少女はいつものように、ドタドタと足音を立てて部屋に入ってこない。ただ、襖から顔を覗かせて、心配そうに聞いてくる。

 昨日のように、「今日は駄目だ」と言えばきっと今日も素直に帰ってくれるだろう。

 そう思って口を開いた瞬間、昔、女神に言われた言葉を思い出した。

『逃げるな』

 万里華からの手紙を読むかどうか迷っていた時にかけられた言葉だ。

 なんで今思い出したのかはわからない。ただ、言おうと思っていた言葉を口から出すのはやめることにした。

 いつまでも子どものように心配をかける訳にはいかない。

 現実を否定したところで、この世界に保育士という職種が出来る訳じゃない。


「もう大丈夫だ。……心配かけたな……」

 布団から這い出て、熊のようなルームウェアに身を包んだシェスカの元に行く。

「ほんと? 明日はシェスカと遊んでくれる?」

「……ああ……明日は一緒に遊ぼうな」

「やったー! じゃあおやすみなさい!!」

「おやすみ……」

 時計を見てみれば、既に9時を回っており、外は真っ暗だった。

 頭をかきむしったことで、自分が二日間も風呂に入っていないことを思い出し、シェスカと遊ぶということは間違いなくファルナも混ざるだろうということに思い至り、露天風呂に向かうことにした。


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