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子どもを司る女神は、椅子で聞く姿勢になっている優真を見て、自らも椅子に深く腰かけた。
そして、真剣な眼差しになった彼女は語る。
「この世界に保育士が無い理由。それはこの世界が子ども達を小さな大人として扱い、働かせているからなんだ。その原因は神々の頂点に立つ創世神の一柱、創造神が子どもに興味が無いからなんだ」
「子どもに興味が無いから、ねぇ……」
「うん。創造神の考えは、子どもは親や大人達の言うことさえ聞いていれば成長できる生き物で、教職者でさえも必要としていないんだ……保育士になりたいと望む君には酷な話かもね……」
「……まったくだな……」
「ごめん……話を戻すよ。創造神の考えは他の神々にも影響を与え、既に9割の神々は創造神の考えに心酔し、自分達の信者に、子どもを6歳まで育てた後は働かせても問題無いというルールを作ったんだ……どうかしたのかい?」
女神が語っていると、急に優真が手を挙げたことで、話を中断して、彼にそう問いかけた。
「……それはおかしくないか? 子どもは大人と体格からして違う。前にも思ったが6歳で働かせるなんて……」
「不可能……そう言いたいんだろうけど、答えは結果が示している。6歳の子どもでも働こうと思えば働けるんだよ……もちろん大人と同様の仕事は出来ないけどね……」
「だが、児童労働は……地球のルールか……」
「うん。こっちにそれを邪魔する法はない。そもそもこちらの神々は人間達にそこまで興味を抱かない。私のような異端もいるが、それはごく少数だ。世界に存在する動物達と人間を平等に扱う。そんな神々にとって、人間の遅い成長は、働くのを拒ませる理由にはなり得ない。人間の住む地上に干渉しない地球の神々とは別の考え方だね」
「いや待て! 俺の知る限りじゃこっちの世界でも色んな神が人間達と良い関係を保ってるじゃないか! 例えば糸の神が作った服屋はあちこちで見かけるし、この前の宝石店だってーー」
「そう!!」
優真がそう言った瞬間、女神は目を輝かせて机を叩いて立ち上がった。
「私達と人間達は素晴らしい関係を築ける!! 糸の神や鉄ちゃんだって良好な関係を築いている。それはこの世界にやって来た転生者が教えてくれた事実なんだ! 1000年前、誰も私の意見に耳を傾けてくれなかったのがどうだ! この世界にやって来た転生者が、地球で構築された文化を持ってきてくれたお陰で、この世界に変革をもたらした。彼らのお陰で私は神になることが出来たと言っても過言じゃない!! 母様や時空神様を先頭に、私達はこの世界を大きく作りかえる!! その為にも、来年開かれる『神々の余興』で私達は優勝しなくちゃいけないんだ!!」




