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「……すいませんハルマハラさん……本当にすいません」
優真は目に涙を浮かべ、こちらに微笑んでくるハルマハラに震える声で謝った。
「……あなたが謝る必要なんてありません。元々無謀な賭けだったのです。それにもかかわらず、あなたは最大限の力を引き出した。あなたは何も悪くありません。……ただ、運が悪かっただけです」
(……俺が悪くない? そんなことあるもんか! 俺が弱いから、この人は腕を切られた。俺が無能だから、この人を助ける術がわからない。俺がもっと強ければ、この人はこんな目にあわないですんだ! …………全部、全部俺のせいだ!)
目の前に迫る危険に対処する冷静な判断力。Sランクモンスターをも翻弄する高い技術力。戦闘の中で培ってきたであろう確かな戦闘力。どれをとっても一級品のハルマハラさんが、こんな俺を庇って左腕を斬られた。
罪悪感が募る。
勝てると思った。何の根拠もない。強いて言うなら、神の言葉を信じた結果。それなのに、勝てなかった。
要するに足りなかった。神の予想以上に俺が弱すぎた。
俺が弱かっただけ……それで、今回の話は終わりだ。
俺はミストヘルトータスに襲われて死ぬ。……ただ、それだけだ。
「…………【ブースト】発動」
ふらふらと立ち上がった俺は、制止の声をかけるハルマハラさんを無視して、その言葉を呟いた。
「……【ブースト】発動」
ブザーのような音が脳に響く。それを俺は無視する。
「【ブースト】発動」
俺が死ぬのはいっこうにかまわない。…………でも、俺のせいで、人が死ぬのだけは、絶対に嫌だ!
「【ブースト】発動っ!!」
優真がその言葉を叫ぶと、彼の目から血が流れ始め、凄まじい覇気を体から発し始めた。
死肉を食らおうと、期を窺っていたモンスターたちが逃げ出してしまうほどの覇気。その覇気は、とてもこの前まで普通の学生だったとは信じられないほどの覇気だった。
そして、そのオーラは、銀色に輝き、ハルマハラが絶句してしまう程のものだった。
◆ ◆ ◆
その姿を見たミストヘルトータスは、動物的本能で察する。
この男はやばい。と。
ミストヘルトータスの目的は眷族となれる人間を探すことだ。神の下に献上することができる人間として、さっきまで、目の前にいる二人は上質な素材だった。
怯えていても、逃げ出そうとはしない。
そんな人間を二人も見つけることができた。
一人は年をとってはいるが、実力は申し分ない。もう一人は自分の足を切断し、首にいい一撃をもらった。
《最高の素材》
そう判断していたのに、いきなり若い人間の危険度が増した。
こんな危険な男を霧の神様に献上なんて出来はしない。
ここで殺すのが、霧の神様のためであり、自分のためだった。
自分の全力をもってこの人間を葬る。
ミストヘルトータスは甲羅にこもり、その甲羅に力を込めて回転させる。先程までは手加減の必要があったため、3割程度だったが、今度は全力の一撃だ。
ミストヘルトータスは、全身全霊の一撃で優真を狙った。
◆ ◆ ◆
優真は眼前に迫る脅威に驚くどころか、何の反応も示さなかった。ただ、その姿を見据えるだけ。
優真の中にはこの亀を木っ端微塵にすることだけしか頭になかった。
目の前まで来たその甲羅目掛けて、優真は踏み込んで手を掲げる。
「逃げたまえ、ユウマ君っ!!」
ハルマハラはその攻撃を避けようともしない優真に、声をからしてしまいそうになるほどの大声で叫ぶが、優真は聞き入れようとはしなかった。




