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10倍のブーストは、あばらが折れているせいもあって、なかなかしんどかった。
しかし、しんどいからと言って止める訳にはいかない。
今、こうしている間も、ハルマハラさんは俺を信じて戦っている。
「【ブースト】攻撃力10倍!」
そう叫んだ時、自分の中にある何かが、昂っていくのを感じると同時に、とてつもない虚脱感に襲われる。
だがーー
「……賭けは…………俺の勝ちだ!」
ふらふらと焦点の合わない目を、霧を吹き飛ばしているモンスターへと固定する。その言葉を発した直後、優真はおもいっきり地面を蹴った。
「いきますっ!!」
優真の合図が聞こえた瞬間、ハルマハラは作戦通り後方へと移動し、前線から離脱する。
優真の右手に込められた威力は、先程までとは比べ物にならないものだ。
全力の拳は、油断していたミストヘルトータスの首に直撃した。
優真の発生させた風圧が、周りの霧を吹き飛ばし、その直撃をもろに食らったからか、ミストヘルトータスの表情が苦悶で歪んでいるのが見えた。
「やったか!」
しかし、その言葉を発した直後、ミストヘルトータスの目が紅く光った。
「グルルルルルガアアアアアア!!!」
ミストヘルトータスは耳をつんざくような咆哮を発し、森に存在していた霧を全て吹き飛ばした。
その咆哮を至近距離でもらったせいで、一瞬気を失いかけて、回避行動が遅れた。
咆哮を上げた直後に肉体を全て隠したミストヘルトータスのスピン攻撃が、隙だらけの優真を襲う。
「しまっーー」
目の前が真っ赤な鮮血で満たされた。
繋がっていない左腕が地面に落ちる音が鮮明に耳へと届いた。
勢いに流されて、地面に体を叩きつけられ、痛烈な痛みに襲われる。
背中に激痛が走って、優真は呻き声を上げた。
………痛い。なんで俺がこんな目にあわなきゃならないんだ。
………【ブースト】の重ねがけですら届かない。
自分が弱いのがもどかしい。俺がもっと強ければ、今の一撃で倒せていたはずなのに。
体を起こした優真が、目を見開くと、そこには、失った左腕の出血を苦しそうに押さえるハルマハラの姿があった。
今のスピン攻撃が当たる直前に、身を呈して俺のことを守ったのだ。
刺々しい甲羅が回転して、彼の腕を切断した。
しかし、ハルマハラはそんな絶体絶命の状況下で冷静な判断をし、腕を切られた勢いを利用して、自分の身と優真の身を地面に叩きつけた。
結果、必然のように迫る死を、ハルマハラは左腕と背中のダメージだけで、回避してみせた。
不安そうな眼差しをハルマハラに向ける優真。それを見て、ハルマハラはなぜか小さく笑った。
「……貴方が無事で……良かった」




