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「…………ふむ、それを本気で実践できるのか甚だ疑問ではありますね。そもそも、先程、あのような無様を晒した後でよくその提案が出来ましたね?」
……それを言われると何も言えない。
しかし、これしか方法はないのだし、どうにかして説得するしかーー
「いいでしょう。その作戦に乗ります」
…………え? 今なんて言った? 乗る? ……この作戦に? まだ大雑把な説明しかしてないのに?
「ほ……本当にいいんですか?」
「ええ。貴方の力がどういうものかわかりませんが、先程の一撃は見事でした。その柔軟な発想と死をも厭わない精神、それに賭けてみることにします。それに貴方は、私の友人たちを、逃がしてくれた恩人。この老体がどこまで役に立てるかわかりませんが、貴方には指一本触れさせませんので悪しからず」
「あ……ありがとうございます。このご恩はーー」
「お止めなさい。男が簡単に頭を下げてはなりません。しかし、気持ちだけは受け取っておきましょう。さあ、さっさと始めましょう。時間がないのでしょう?」
「はい! よろしくお願いします」
「ええ、お任せください」
ハルマハラさんは俺に向かってそう言うと、木の陰をでて、ミストヘルトータスの前に姿を晒した。
◆ ◆ ◆
(知らぬとはいえ、元A級冒険者である私を、とどめとして用いるのではなく、時間稼ぎに用いるとはね。……実に面白い青年だ。はてさて、自分の力に絶対の自信があるのか。それとも、只の無能なとちくるった馬鹿か? 見極めさせてもらうとしましょう。
……さて、確かに年をとって、全盛期の頃に比べれば、体力、攻撃力、速度といった身体的能力は衰えましたが、技術なら、そこいらの若造に遅れはとりませんよ)
ハルマハラはミストヘルトータスの前に立ち、鋭く尖った切っ先を敵へと向ける。
ミストヘルトータスの動きは、既に見切っている。尻尾による攻撃、スピンによる攻撃、光線の攻撃、これらを警戒すれば、時間を稼ぐのは容易だ。
しかし、あの甲羅の硬さは異常だ。さすがSランクと呼ばれるだけのことはある。何度攻撃しても、傷一つつかない。
肉体をいくら攻撃しても、異常に回復能力が高いせいか、刺突では、すぐに回復されてしまう。
先程斬られたはずの足も既に回復されており、勝つには絶望的な状況だった。
ミストヘルトータスが再び、霧を払う程の咆哮を放ち、戦闘が開始された。
◆ ◆ ◆
ハルマハラさんは、俺のお願いしたとおり、敵を翻弄していた。
華麗な剣術は、見るものを魅了する。
攻撃の一発一発が最初に放った俺の攻撃より高いのか、ミストヘルトータスの足に傷がいくつもついている。
攻撃直後には、その場を離脱することで、相手の攻撃を一切受けていない。
見た目50代後半っぽいのに、ハルマハラさんは足を止めずに動き続けている。
しかも、俺の方に攻撃がいかないように立ち回っている。
あの状況であそこまで動けるハルマハラさんの剣に俺は見入っていた。
(生きて帰ったら、あの人、剣教えてくれないかな?)
さて、そんなことを考えながらも、ハルマハラさんが命がけで稼いだ時間を1分たりとも無駄にはしない。
(いくよ! 【ブースト】発動! 攻撃力、速度10倍!!)
俺は、【ブースト】を発動して、自分の攻撃力と速度をはね上げた。




