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「そういえば、貴方とは初対面でしたね。私はハルマハラと申す者です」
レイピアを右手に握りしめた白髪の男性は優真に対して一礼するとハルマハラだと名乗った。
村人にしては、異様なほど、礼儀正しく、紳士的な人だと聞いていたが、確かにそうだと思える。見た感じ、どこかの執事をしていそうな人だ。
あの状況で冷静に木を的確に切断するというテクニックを持っているところを見ると相当強い人なんだと思う。
ハルマハラさんは優しい顔をしながらも萎縮してしまいそうなオーラを放っていた。
「……あれ? 確か、ハルマハラさんって死んだんじゃーー」
「勝手に殺さないでください。こう見えても私は結構強いのですよ」
「……いや、それはなんとなくわかるんですが、集合場所に来なかったし、シルヴィの話から、てっきり死んだのかと」
ハルマハラさんは、俺の言葉を聞くと、「その事ですか」と呟いて、真相を打ち明けた。
「……実は私も笛の音で駆けつけてはいたのですよ。しかし、戦っていたこのミストヘルトータスまで連れてきてしまった次第です。いやはや、面目ない」
彼は申し訳なさそうに頭を下げているが、要するに、このモンスターと戦っていたら、笛の音が鳴って、ハルマハラさんは急いで駆けつけたが、ついでにこのモンスターもついてきたという訳か。
なんてことをしてくれたのだろうか、この人は! お陰でこんな目にあってるんだから、俺からしてみればいい迷惑だ。
◆ ◆ ◆
木に背中を預けて地面に座る俺は、これからどうするか迷った。
どうやら、ミストヘルトータスは完全に俺たちを見失っている様子だった。
このまま、ここでおとなしくしておくか、いっそのこと逃げるか。霧のせいであのモンスターがどこにいるのかもよくわからないが、足音が近いため、大まかな位置はわかる。
…………前足斬ったのに、よく歩けるな。……まさか、もう再生されたのか!?
もし、それが本当だった場合、勝ち目なんて無さすぎる。さっさと逃げるしかーー
その時、脳にあの音が響いてきた。
『優真君、君にそのモンスターを倒してほしい!』
表示されたタッチパネルには、そう書かれていた。
表示された文から、おそらく女神からの通信だと思った。
(ふざけんなっ!! そんなことできる訳ねぇだろバカ女神!)
その内容に危うく大声で文句を言いそうになるが、近くにいるミストヘルトータスが、こちらに気付く可能性があったため、心の中で文句を言った。
しかし、次に表示された文には無視できない内容が含まれていた。
『そのモンスターは、眷族候補を捕まえるために、やってきた神の遣いだ。そのモンスターの目的は、途中で候補者を逃がさないことでもあるから、馬車は真っ先に潰されたんだ。そして、そのモンスター、君と隣にいる者に目をつけているね。もしも、君たちがここから逃げれば、村までついてくるよ』
眷族を探す……それの意味はよくわからなかったが、要するに逃げれば、村を危険に晒すってことか……最悪じゃないか!
こうなったら、こいつを殺さなきゃ、どうしようもないってことか。……いったいどうすればーー
『方法はないこともないよ。【ブースト】の重ねがけをすればいい』
……【ブースト】の重ねがけ?
『【ブースト】、本来その力は、1から10までの数値で倍加することができる君だけに与えられた能力だ。しかし、10倍した後、更に10倍すれば、君は100倍の力を得ることができる。要するにブーストをかけた後にブーストを重ねがけすることで、威力を増やすことができるということだよ。……ただ、デメリットも存在する。能力の重ねがけに挑戦すれば体に負担をかけるあまり、二度と動けない体になるかもしれない。おすすめはしないが、君の判断に任せる』
「……こんな状況の俺に、まだ戦えってのかよ。あの女神は本当に鬼畜で嫌なやつだな。…………まぁ、それでも、少しは俺の意思を尊重してくれるところはあの女神の数少ない長所だな」
「何を言ってるのですかな、ユウマ君?」
「……ハルマハラさん、一つお願いしたいことがあるんですが、 いいですか?」
「……聞くだけ、聞いてみましょう」
俺の目を見た瞬間、ハルマハラさんは、興味深そうな顔を見せた。




