4-17
この時の俺は、Sランクモンスターの足を2本切り落とし、転倒させたことで調子に乗っていた。
まだ相手を倒したわけでも、逃げ切れたわけでもない。
それなのに、気を抜いてしまった。
完全に油断していたとしか言いようがなかった。
前足を斬られたミストヘルトータスは、目を尖らせ、自分の足と顔の部分を全て殻の中に閉じ込めた。
次の瞬間、ミストヘルトータスは、霧を噴射しながら、高速回転し始めた。
霧の濃度が増していき、まともに前を見ることもままならなかった。絶対に目を離してはいけない相手だったはずなのに、油断して見失ってしまうという失態を犯した。
さすがの俺でもその状況がまずいことくらい瞬時に理解できた。何か攻撃してくると思い【ブースト】を使用して、咄嗟に防御力と耐久力をはねあげた。
しかし、その油断していた腹部に、しなる鞭のような尻尾をおもいっきり叩きつけられた。
その一撃をまともに食らった結果、俺は轟音を轟かせながら、木に叩きつけられた。
悲鳴を上げることもままならない程の攻撃。
その勢いは、ぶつかった木にめり込むほどの威力だった。
日本で居眠り運転の車にひかれた時よりも痛かった。
そんな威力の攻撃を受けたのに、生きていられるのが、不思議でならなかった。
意外なことに、腹から血は出ておらず、あばらが何本か折れた程度ですんだ。
しかし、樹木にめり込んでしまったせいで、身動きできない。なんとか、脱出を試みようとしたが、体が思うように動かせないせいで、失敗に終わる。
目の前で、ミストヘルトータスが死の光線を放つために、エネルギーを溜めているのがわかる。
(……もうだめかな。……ごめん二人とも、……俺そっちに戻れそうにないみたい)
一筋の涙が頬を伝う。
最後に見たシルヴィとシェスカの顔が脳内を過る。
ミストヘルトータスの口から光線が放たれ、後方にある木ごと根こそぎ灰にした光線。
その光線は、優真のめり込んでいた木も消滅させてしまった。
◆ ◆ ◆
「…………まったく世話をかけさせないでくださいな。こちらも怪我をしていて辛いのですから」
左腕で俺を担ぎながら、木から木へと移動する人物が前を向いたまま、俺にそう言ってきた。
その人は、ミストヘルトータスから少し離れた位置に移動して、安全そうな木に怪我を負った俺を座らせた。
(…………誰? ……というか、なんでまだ生きてるんだ、俺?)
霧の影響で見にくかったものの、それでも村人とは思えない佇まいや、しゃべり方から初対面だと思った。
その人が、右手に持つレイピアを一振りすると、俺とその人の周りにあった霧が一瞬にして消え去った。
そしてなぜか、その霧が戻ることはなかった。
何が起きたのかはよくわからなかったが、次の瞬間、その人は懐から出した謎の液体が入った小瓶を出すと、俺の口に無理矢理突っ込んだ。
いきなりなんの説明もなくそんなことをされれば、混乱するのも当たり前だし、正体不明のおっさんから、正体不明の液体を飲まされるというのはまずいし、この液体も不味い。
吐き出そうとすると「吐いたら殺す」と威圧的に言ってきたので、その顔に恐怖を感じ、黙って何度も頷き、その液体を飲み干した。
すると、脇腹の痛みや、動かせなかった四肢も動かせるようになった。
これって、いわゆる回復ポーションというやつなんだろうか?




