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俺たちが向かっている公園は大人が行けば徒歩10~15分程度の距離にあり、そこへ約50人の園児に俺と万里華を含めた6人の大人で子どもの安全第一で向かう。
子どもたちは二人一組で隣の子と手を繋ぎながら、先生の指示に従って、歩道の壁側を歩く。
車道側には、保育士が配置されており、子どもが車道に出ないように注意をする。
子どもたちは、保育士が隣に来ると手を繋ごうとしてくる。それを拒まずに手を繋ぐと、子どもたちは無邪気な笑顔を時折こちらに向け、話しかけてくる。
俺と万里華は、列の真ん中辺りに配置され、先頭と最後尾に一人ずつ保育士が配置されている。
車が来ると見つけた先生は大声で知らせ、担任の先生が「壁によって」と声をかけて、子どもたちを壁に寄せる。
先生たちの指示に従いながら、子どもたちは壁に寄って、車をやり過ごす。
そんなこんなで、子どもたちが先生の指示に従ってくれるため、公園への道中は順調に進んでいた。
◆ ◆ ◆
公園へと向かう道中に信号のない横断歩道があった。
ひまわり組の先生が左右の確認をし、子どもたちが渡り始めた。
俺たちが渡り始めた時に一台の車が見えた。
距離にすれば100メートルくらいの場所で、黄色い車がこちらに向かってくる。
不自然にふらふらしており、なんだか無性に嫌な予感がした。
「どうしたの?」
横断歩道を渡り終えそうな万里華が、子どもたちを見ずに道路の真ん中で動かない俺を心配そうに見てきた。
「いや、なんかあの車変だなって思ってさ……不味い!! 先生っ! 早く子どもたちを横断歩道から出してっ!!」
「え?」
万里華にわかるよう指差した時に、その運転手の様子が見えた。
車に乗っていたのは若い女性だったが、その女性は頭をふらふらさせており、次の瞬間、その顔が下に落ちた。
『居眠り運転』
この単語が頭に浮かび、事故が起きる可能性を考え、先生へと真っ先に呼び掛けた。
先生も俺の切羽詰まった様子に、車の異常に気付き、急いで子どもたちを左右へ分けた。
しかし、俺の傍にいた子ども三人は目の前に迫る危機に動けずにいた。
その子どもたちを見捨てて自分も避難すれば、俺は助かる。
車はすぐ傍に来ている。
この状況でやれることは限られていた。
『子どもを見捨てて生き延びるか?』
それとも、
『自分の命と引き換えに子どもを助けるか?』
まだ夢を叶えていない優真にとってこの人生には未練しかなかった。
そして、優真は一度、人を失う辛さを経験している。
じっくり考えたくてもそれを許される状況ではなかった。
『ドンッ!』
何かと何かがぶつかる音が、女性の悲鳴と共に、この空間に鳴り響いた。