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出発しようとすると、子どもたちはお腹を空かせて泣きはじめた。
そんな子どもたちを泣き止ませたのは、ライアンさんだった。
彼は、お腹が空いて動けないと泣き続ける子どもたちに、
「ここからでたら、美味しいご飯をいっぱい食べさせてあげるよ。だから、もう少しの辛抱だ!」
と言って励ましていた。
小さい子たちは、納得いかない様子だったが、大きい子たちが、ライアンさんの言葉でもう少し頑張ると決意してくれた。
小さい子たちには俺も秘策があった。実は、給食を作る過程で、ライアンさんの奥さんから、料理を習っていた。
その際、よく3時のおやつで配る飴の制作を手伝わせてもらっていたのだが、余った分をよくくれたのだ。
幸いなことに、俺のタッチパネルには、アイテムボックスという機能があったため、飴はよくアイテムボックスの中に入れていた。
ただ、あいつに全部食べられてないか不安だったが、どうやら、食べてなかったらしい。
取り出した飴の入れ物に貼ってあったメモの内容が「甘いものNG」って書いてあったため、食べようとはしていたようだ。
……なんか袋一つ分足りないが、今回はあいつの協力があったから助けられたことを考慮して、不問に処した。
……というか、子どもを司る神なのに甘いものNGなんだ。
飴を袋から取り出して渡すと、子どもたちはすぐに言うことを聞いてくれた。もちろん、寝ているシェスカ以外の全員に持っていた飴を配った。
ライアンさんが、それあるなら最初から出せよと目で訴えかけてくる。
まったくもってその通りだと思うが、アイテムボックスのことをライアンさんが励ますまで忘れていただけだ。他意はない。
◆ ◆ ◆
ライアンさんは、出発する直前に、懐から取り出した縦長の笛を取り出し、それを吹いた。
これは、仲間たちに子どもを見つけた際に使う合図だった。
この音が鳴った場合、どんな状況にあっても、合流地点として設定した場所へ向かうという決まりになっている。
綺麗な音色は、辺り一帯に響き渡る。
森の中に入る途中でライアンさんが教えてくれた。
彼らの持つ笛は、かなり広い範囲に音を響かせる為、その音の細かな違いや音色で合図を送り合うそうだ。
音楽が得意じゃない俺にはよくわからなかったが、まぁ、心配する必要はないというなら、安心だ。……ただ、これってライアンさんと離れたら終わりなんじゃ?
ライアンさんは、笛を吹き終えた後、出発するぞ、と確認をとってきた。
俺は、最大限の注意を払いながら、子どもたちの後に続いた。
◆ ◆ ◆
合流地点までの間、結局何の問題もなく、進むことができた。
霧のせいで方向感覚が狂っているんじゃないかと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。
この地点は、さっきの場所よりも、霧が濃く、本当に皆が近くにいるのか不安になった。
ついて早々、シルヴィが全員いるか点呼をとっていた。
子どもたちは全員いるそうだが、リーダーのガルバスさんがライアンさんへと伝えた言葉を聞くと、どうやら4人ほど、来ていないそうだ。
ハルマハラさんという腕利きの護衛が彼女たちから離れるほどのなにかが、この場所に存在している。
出来れば、早めにこの場所から離れた方がいい。そう思った時に気付けた。
来る前には自分たちの他に馬車が3台はあったはずなのに、今では1台しかない。
「やめろシルヴィ! 子どもたちを馬車に乗せるな!!」
シルヴィが、子どもたちを乗せる寸前に気付いた俺は、シルヴィたちを急いで馬車から引き剥がしにかかった。




