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「……そういえば、……名前」
「え? 名前がどうかした?」
子ども達を集めているシルヴィがこっちに視線を固定させていたのが横目で見えたため、俺に言っているのだと思った。霧が薄まっているため、彼女の表情が少し赤くなっているように見えた。
「……さっき、シルヴィって」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の言わんとしていることがわかった。
そういえばさっき、彼女のことをシルヴィって呼んでしまったんだ。
「ごめん。失礼だったよね。これからは気をつけるよ、シルヴィさん」
そう言って謝ると、彼女は「そうじゃない」とでも言いたそうに頬を膨らませる。
「いいんです。ユーマさんは、私の恩人なんですから、さっきみたいにシルヴィって呼んでください!」
「……そういう訳には」
「シルヴィって呼んでくれなきゃ二度と口利きません!」
「………わかったよ、シルヴィ……これでいいか?」
「はい!」
その確固たる意思を曲げる気は彼女にはないらしく、優真は結局、シルヴィと呼ぶことにした。
その時、シルヴィが少しだけ嬉しそうな表情を見せてきたため、少しドキッとした。
それから、後ろでおっさんが「青春だね~」と煽ってくるのが腹立った。
◆ ◆ ◆
帰ろうとした時、シルヴィは子どもたちを集合させたまま、移動しようとしていた。
彼女の指示にいちゃもんをつける気はなかったが、なんとなくそのままだと、いつの間にか一人か二人消えてるんじゃないかと不安になったのだ。
そこでシルヴィに一つ提案をしてみた。
死ぬ直前、俺は実習で遠足に行っていた。
実際の経験は活かすべきだと思ったし、この世界では、あまり元居た世界の情報を言うつもりはなかったが、緊急事態でそんな悠長なことは言ってられない。
シルヴィは、意外にも俺の意見をすんなり受け入れてきた。
ライアンさんに関しては、よくわからないらしく、俺の指示に従ってくれるらしい。
俺は、子どもたちを二人一組にした。3歳と5歳、という風に、大きい子が、小さい子と手を繋ぎ、一つの列を作る。
子どもたちの中で一番小さいのは、2歳の子だった。二人いたが、6歳の子に任せ、列の真ん中に配置した。
ライアンさんを一番先頭に立たせ、シルヴィは真ん中に配置した。
シェスカはと言えば、ここまで、姉に心配かけまいと頑張ってきたらしく、今は俺の背中で眠っている。
シェスカがいなかったら、シルヴィはとっくに壊れていたのかもしれない。
そう考えると、背中を貸すなんて容易いことだ。
最後に俺は、列の最高尾で、子どもを見守るようにした。
もしもの時は、子どもたちが危険に陥っても、能力でなんとかできる。
ライアンさんを後ろに配置したかったが、能力を完全に理解出来ていない状況でライアンさんから目を離すのは危険だと思ったからやめた。
別に、ライアンさんを信用していない訳じゃない。ただ、後方に配置すると、能力で守りきれないと感じたからだ。
それに、この森なら目を瞑っても帰れるというライアンさんの言葉を信じたからでもある。




