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条件が揃わないと最強になれない男は、保育士になりたかった!  作者: 鉄火市
4章:実習生、子どもを捜索しに行く
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4-6

 その声を聞いた瞬間、シルヴィはその声に怯える子どもたちを傍に寄せた。

 15人の子どもたち全員の無事を確認したシルヴィは、声のする方へと、警戒して背に子どもたちを庇う。

(ここで逃げるなんてだめ。私が逃げたら、この子たちが危険に晒されちゃう)


 強い意思を持って、声のした方を確認する。

 一面真っ白な霧、先程よりは薄くなっているが、それでも子どもたちがかろうじて見える程度。しかし、足音から、徐々にこちらへと近付いてくるのがわかる。


 すぐ近くまで迫ったその何かは、再びうなり声を発する。

 次の瞬間、強烈な風がシルヴィたちを襲う。

 その強風が辺り一面真っ白だった霧を吹き飛ばした。

 攻撃力はないが、彼女たちを絶望に突き落とすにはそれで十分だった。

 目の前に現れた、黒くスラッとした四足獣。その尻尾は、風を発生させるために、平たい三日月の形をしている。

 その独特な特徴、間違いなかった。

「……テンペスト……ハウンド……」


 Cランクのモンスターでありながら、B級冒険者ですらも一人では勝てないと言われるこの森に住む危険なモンスターの一種。

 その凶暴な性格と、かまいたちを放ってくる攻撃力、Aランクのモンスター、タイラントグリズリーを狩ることもあると言われている。

 とても女、子どもが敵うような相手ではなかった。


(まずい。このままじゃ子どもたちがっ!)

 早く逃がさなければいけないのに、恐怖で声が出ない。

 しかし、知能なきモンスターは、己の欲に従い、目の前にある格好の獲物に飛びかかった。

 目の前に迫る死に、シルヴィが目を閉じた時だった。


「キャイン!」

 という鳴き声が耳に届いてきた。

 おそるおそる目を開けてみると、そこには一人の青年がこちらに背を向けて立っていた。


「一人でよく頑張ったね」

 いつもは頼りない背中がとてもたくましく思えて、シルヴィは安堵し、目尻から涙をポタポタと流す。

 振り向いたその人物は、絶対に来てはもらえないと諦めていた存在、雨宮優真だった。

「……ユーマ……さん?」

 服の袖で涙を拭っているシルヴィがそう言ったのを見て、優真は、シルヴィや子どもたちに背を向ける。

「後は任せてくれ!」


 ◆ ◆ ◆


 ~優真が到着する少し前~


 馬車が破壊されてから、シルヴィさん(彼女)たちの位置がわかるようになってきた。

 どうやら女神(あいつ)は、力を貸してくれるつもりのようだ。


「ライアンさん、もう少しです」

「おいユウマくん、どうやら急いだ方が良さそうだ。今のうなり声はテンペストハウンドのもので間違いない。悠長にしてれば手遅れになるぞ!」


 テンペストハウンドというモンスターについて、聞こうと思った瞬間、強い風がこちらの方まで届いてきた。そして、今の一瞬、黒い犬と、シルヴィさんの姿、そして周りにいる子どもたちの姿が見えた。


 急いで彼女たちを助けないと!

 でもどうやって?

 この距離じゃどうあがいたって間に合わない。

 あの犬が味方だとか、待ってくれるという楽観視は絶対にできない。

 急げ。足を動かせ。今より早く!

 あの子たちを助けなかったら、俺は、いったいなんのためにこの力を貰ったというのだ!!


 霧の先、テンペストハウンドがシルヴィさんに襲いかかるのが見えた。

 その瞬間、全ての時が止まった。

『特殊能力【勇気】の発動条件が満たされました。これより、1分間、あなたが行動を選択するまで世界の時が止まります』

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