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「状況説明を頼めるかいミハエラ」
1対の白い翼を生やした女性は、いきなり現れた彼女に対して跪き、敬意を表す。
「霧の女神による選別が始まり、それに優真様の友人と、その女性が率いる15人の子どもが行方不明になりました」
「要するに、さっきの攻撃は霧の女神による仕業ってことかい? 私の眷族に手を出すなんて……私に喧嘩でも売ってるのかな?」
「おそらくそれはないと思われます。優真様は自らの意思であの場に入りました。その結果、無差別な攻撃の対象になったのだと」
女神の出す不機嫌なオーラを真っ正面から受けても、ミハエラは萎縮せずに、率直な意見を伝えた。
「ふ~ん。選別に自分から入っていったのか? まぁ、どちらにしたって彼が無事で良かったよ。彼にあの能力をあげたのは正解だったね。…………ちょっと霧の女神には反省してもらわないとな。それから、彼の要求通り力貸してあげるからそこ退いてくれる?」
ミハエラは自分の主神に対して、再び頭を垂れ、タッチパネルの操作権を譲った。
「さ~て、優真君。君のお手並み拝見といこうか!」
にやりと笑った彼女は鮮やかな手つきで、ちゃぶ台の上に乗ったノートパソコンを操作するのであった。
◆ ◆ ◆
シルヴィは困っていた。
子どもたちが、唐突に泣き出したのだ。
子どもたちの不安は、シルヴィが取り除こうと奮戦していたし、シェスカや上の子たちが下の子を慰めていた。
シェスカたちの協力もあって、なんとかなっていたのだが、その中でも一番歳が大きいダイキが泣き始めたのだ。
理由は単純。彼のお腹が減ったのだ。
今は普段から昼食を食べる時間をとうに過ぎている。
しかも、ダイキが泣き出したことによって、他の皆も思い出したかのように泣き始めたのだ。
こうなってくると、シルヴィ一人じゃどうしようもなかった。
そもそも、シルヴィは本来手伝いという立場でしかなかったのだ。
本来なら、ヤハライカという保育所の人間が先導するはずだったが、昨日ぎっくり腰になって休養中。そのため、シルヴィが申し出たのだ。
(こんなことになるんだったら、おばあちゃんについてきてもらえば良かった。おばあちゃんだったら、皆をおとなしくする事なんて簡単だっただろうし、何より、緊急時の判断も的確だったよね。……私なんかじゃこんな時どうしたらいいか)
シルヴィが不安に押し潰されそうになっていた時、シェスカが抱きついてきた。
「大丈夫だよお姉ちゃん! きっとお兄ちゃんが助けにきてくれるよ!」
シェスカの目は、希望に満ち溢れており、一点の曇りもない。
しかし、シルヴィには、それがあり得ないことだとわかっていた。
「……きっと来てくれないわ。私はきっとユーマさんに嫌われてるから」
あの日、最後に向けられた彼の瞳が忘れられない。
怒りと絶望が入り交じった瞳を向ける彼が、私にどんな思いを持ったのか思い知らされた。
「それ……お兄ちゃんに聞いたの?」
「……え?」
シェスカの放った言葉が、シルヴィに強い衝撃を与えた。
その言葉になんて返せばいいのかわからなかった。
(嫌われてた……はず、……本当に? 確かに聞いてないけど)
しかし、それを考える暇はなくなった。
「グルルルルル」
獣の低いうなり声が、シルヴィの耳に届いてきたのだった。




