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「婆さん、シルヴィさんたちが帰ってきてないって本当か!」
荷台から荷物を下ろす準備をしていたため、先にライアンさんが中に入ったのだが、そのライアンさんが血相を変えて俺に、シルヴィさんが森に入ってから戻ってきていないことを伝えたのだ。
俺は中にいた婆さんに詰め寄った。
「お前さんはここにいな。お前さんのような戦いの、たの字も知らないようなガキを連れていくのは御免だよ。おら、そこをおどき!」
「待ってくれ!」
俺をどかした婆さんは、準備をしに行くのだろう。
彼女はこの村のリーダー格で、彼女の判断、彼女が費やす1分1秒がシルヴィさん達の生死に関わってくる。
それでも、俺は婆さんの肩を掴んだ。
婆さんが俺を睨んでくる。
その眼光は、たくましい体の男ですらびくつかせる威力を持っていた。でも、ここでびくつけば、それは素質無しと見られてしまう。
俺は、その眼力に気圧されぬよう、必死に耐える。
「……どうしてだい? お前さん、この機に乗じて逃げようって魂胆でもあるのかい?」
婆さんが諦めたようにそう言ってくるが、俺はそれを認めなかった。
首を振った俺に対して、「だろうね」と呟いた婆さんの言葉に、俺は少し驚かされた。
それは、俺が逃げるとは思ってもいないと言わんばかりの言葉、少しは信用を勝ち取れている証拠だと思った。
しかし、その驚きに時間を割く余裕はなかった。
「俺も連れていって欲しい」
「なんでだい? 言うとくが、この村にお前さんを守る余裕がある者なぞおらん。あのタイラントグリズリーのような猛獣がうろちょろしとる森に出て、お前さんは自分を守る術を持ってないではないか。そもそも、自由にさせてはおるが、お前さんは囚われの身じゃ。それなのに、なぜ村のために命をかけようとする?」
「別に守ってもらわなくて結構。むしろ、おおいにこきつかってくれ。それに、これは俺が決めたことだ。シルヴィさんには死にそうだったところを助けてもらったし、シェスカには、この村のことをいろいろ聞いた。この二人だけでも借りがあるんだ。……それに、助けを求める子どもを見殺しにするなんて、保育士志望として、あり得ないね」
俺は婆さんの目を見て言った。
これで駄目なら一人で行くしかない。土地勘のない俺じゃ、シルヴィさんたちを探し出すのは難しいと言わざるを得ないが、その時はやむを得ない。
「おい婆さん、自警団の連中を集めて来ましたよ! こっちの準備は出来た。早く向かおう!」
婆さんの返事を聞く前に、ライアンさんが大きい足音を立てながら部屋の扉を開けた。
結局、婆さんの時間を奪っただけになっちまった。
「ライアン、今日はこの坊主についといてやんな」
「……は? いいのか婆さん?」
すっとんきょうな声を上げたのは、ライアンさんだけではなく、俺もだった。
「非常事態なんだ。もう同じことは言わないから、耳の穴かっぽじってよく聞きな!
ライアン、ユウマ、お前たち二人は、共に行動しな。捜索隊のリーダーはガルバスに一任する。わしはここで大切な孫娘とかわいい子どもたちの帰りを待つとするさ」
婆さんは、俺たち二人にそう言うと安楽椅子に座った。
「ユウマ! シルヴィたちを絶対に見つけてくれよ。もしも、あの子たちに何かあったら、覚悟しときな!」
「任せろ。行ってくる!」
こうして俺は、シルヴィさんたちを探すために、動き始めた。




