17-1
女神との話し合いがあったあの日から、一週間経ったこの日はどんよりとした天気だった。
「やっぱりこう雨が続くと、洗濯物がなかなか干せなくて困るわ~」
いつもの青い空と照り輝く太陽を遮る雲に、文句を言う幼なじみを横目で見ながら、優真はシェスカとファルナの遊び相手をしていた。
「今日は雨降ってないし、明日には晴れるんじゃないか?」
「そうだね~。そろそろ晴れの神が、雨の女神に文句言いにいってる頃じゃないかな~。あいつら仲悪いし」
優真が万里華と話していると、日本のラノベをソファーで寛ぎながら読んでいた女神が話に入ってきた。
「そんな神もいるのか。ちょっと晴れの神に頑張ってもらいたいな~」
「まぁ……雨の女神もここらにばかり降らしている訳にはいかないだろうし……まぁ、そのうち止むと思うよ」
「ふ~ん」
「まぁ天気の話はこれくらいにして……優真君は何やってんの?」
「ん?」
優真は机の下や台所の戸を開けたりして、何かを探している様子だった。その姿にさすがの女神も疑問に思ったし、万里華も先程からずっと気になっていた。
「……あぁ、これか? 今はかくれんぼしていて、シェスカもファルナもなかなか見つからないんだよね……」
「私も暇だし協力したげよっか?」
「……いや、せっかくなら隠れる方をやりなよ。……あれ? 雨降ってきたか?」
「あちゃ~、今日も晴れの神が負けたか~。まぁどっちにしたって外に出れないから、少しくらい眷族と遊んでやるか」
ミハエラという天使を使って取り寄せた日本のラノベを読んでいた女神は背伸びをしてから、本をテーブルの上に置き、部屋の外に行ってしまった。
「優真は遊んでばっかりで羨ましいね~。少しは手伝ったらどうなの?」
「別に構わないけど、俺に家事ができるか?」
「…………優真は子ども達の相手を頼むわ」
「だろ?」
手伝えと言ってきた万里華にそう言うと、万里華は諦めたように追い払うような仕草を見せた。その手には雑巾とバケツが握られていたため、拭き掃除でもするのだろう。
「そんなに酷いんですか?」
万里華にそう聞いたのは濡れたゴム手袋をしているシルヴィだった。今まで黙々とキッチンの掃除をしていたシルヴィは、その手袋を外して、白く細い指を見せる。
「まぁ、酷いか酷くないかで言うとかなりやばい」
「どっちも使ってないじゃねぇか……」
「料理ではめんどくさいって言って、基本的にメニュー見ないで適当に作るから、そのほとんどが栄養の低いものばっかりで……しまいには3食カップ麺1週間生活とか実践し始めるし……」
「あはは……掃除は?」
「まず隅っこまでしないし、ゴミばっかり散らかってるし、1日経てばせっかく掃除したのに元通りになってるし……」
「……さすがに洗濯は……」
「色付きのものを白いシャツと一緒に洗濯して、その持ち主の妹ちゃんに1ヶ月口も聞いてもらえなくなった人がこちらです」
「あれ以来、洗濯物を完全に別けさせられました。お兄ちゃんと一緒に洗濯しないで、と言われた時の悲しみは死んだ今でも忘れられません」
「あの頃の優真はねぇ……ふふっ……人生の終わりみたいな顔でね……超面白かったわ……」
「……思い出しただけで腹抱えるほど面白かったのか……というか笑いすぎだろ!」
「……いやだって、あの後さーー」
「そうだ。シェスカ達と遊んでるんだった。今すぐ探しにいかないとー」
棒読みでそう言った俺は逃げるように部屋から出ていくのであった。
◆ ◆ ◆
「ったく……人のトラウマほじくり返しやがって……まぁ、さすがに万里華も本人のいないところでは言わないだろ……むしろ、言わないでほしい」
優真が1階の廊下でぼやいていると、玄関のチャイムが鳴り響く。
そういえば今日はホムラが来ると言っていたことを思いだした。優真は「はいは~い、ちょっと待ってね~」と言いながら、玄関の方に向かうと、急に玄関の扉が強く何度も叩かれ始めた。
「ダンナ! 大変なんだ! 早く来てくれ!」
その言葉で優真は玄関の扉を急いで開けると、そこにはずぶ濡れになった少女を背負ったホムラの姿があった。




