16-13
その後、優真はその写真を警察に持っていかれたくなければ、私を殴らないことを条件に出した。
蹴られたことで酔いが醒めかけていたお母さんは、その条件を渋々のみ、それ以降、私がお母さんに殴られることはなかった。
それだけではなく、私に対して何かを言うことも無くなった。だが、そんなものはどうでも良かった。
私には優真が居てくれればいいのだから……。
◆ ◆ ◆
目が覚めると、そこは自分の部屋だった。
周りを見てみると、エメラルドのように綺麗な髪の幼い少女が自分の寝かされているベッドの横に座っていた。
そのニコニコした表情は可愛いものの、彼女がすると何かを企んでいるんじゃないかと疑ってしまう。
「ようやくお目覚めかい?」
「……女神様……おはようございます。確か記憶では優真の背中を洗っていた気がするんですけど……どうなったんです?」
「そうだね。君は優真君が落としてしまった石鹸を踏んでしまい、床に頭を強く打って気を失っていたのさ。……まぁ、かれこれ2時間くらい経ったかな」
「そうですか…………そういえば晩御飯作ってる途中なんだった……すみません、今すぐ作ってきます!」
「大丈夫大丈夫。それなら優真君がトンカツを揚げてくれたよ。ほとんどの作業はマリちゃんがしてくれたから、料理が苦手な自分でもなんとかなったってさ」
「そう……ですか……」
「まぁ、さすがにシェスカちゃんが我慢するのは難しかったみたいだね……優真君はマリちゃんが起きるまで食べないの一点張りだったけど、神様権限で食わせたよ。だって私もトンカツ食べたかったしね! めちゃくちゃ旨かったよマリちゃん!! いつも通り良い仕事だったよ!」
「……それは良かったです」
万里華は嬉しそうに微笑み、それを見た女神も嬉しそうに頷く。
「うんうん……それにしても、裸のマリちゃんを優真君がお姫様抱っこしながらリビングに入ってきた時は驚いたな~。さすがに腰をタオル巻いてたとはいえ、彼自身もほぼ全裸たったしね」
「ええ!? そ……そんな時に気を失ってるなんて……なんて損なことを……もう一回お姫様抱っこしてくれないかなぁ……」
「ふふっ……次は気を失っていない状態でされるといいね」
「はい……頑張ります」
女神からのエールに、万里華は笑顔でそう答えた。
◆ ◆ ◆
「……わかった。それじゃあ、結果は後で報告しにくるよ。……でも、本当にいいのかい?」
女神はそう言うと、不安そうな顔で万里華に確認した。
「私の心は読めているんでしょう?」
「そう……だね。なら、もう何も言わないよ」
そう言った女神は、万里華の部屋から出ていくと、廊下に一人の少女が立っていた。
「やぁシルヴィちゃん。マリちゃんならもう大丈夫だよ」
「それは良かったです……」
シルヴィは安堵したような表情でそう言うと、女神の方を見て、不安そうな顔で、「……今、お時間よろしいですか?」と聞いてきた。
その言葉を聞いて覗こうと思っていた彼女の心から目をそらした。せっかく彼女が勇気を出してくれているのだから、彼女の口から直接聞きたかったのだ。
「構わないよ」
「ありがとうございます。……その……今朝、なんでも願い事を叶えてくださるとおっしゃってくださったのは本当なのでしょうか?」
「ああ、神に二言はないよ」
「で……でしたら、私の願いを叶えてはいただけないでしょうか?」
頭を下げたままの状態でそう言ったシルヴィの表情は真剣なもので、ちゃかすことは出来ないと女神は思った。




