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優真はファルナの溜めの姿勢を見て、強力な攻撃がくると推測できた。
おそらく自分一人であれば避けようと思えば避けられると思う優真だが、後ろの方を見てみれば女神が必死に首を振っている。
『最終段階に入ったため、女神様は現在動けない状態にあります。お願いします。どうにかしてください!』
どうしようか迷っていると、いきなりタッチパネルが目の前に現れ、おそらくミハエラさんからだと思える文章が届き、どうやら俺がどうにかするしかないということだけがわかった。
だが、ファルナの溜め攻撃をどうやって防ぐ?
俺には遠距離の攻撃を持ち合わせていないうえに、防御用の盾もない……まぁあったとしても、盾は一瞬で灰塵になるだろうがね……。
(……もうこれしかないか……)
俺はそう思いつつ、タッチパネルを操作してハルマハラさんからいただいていた剣を取り出した。
(集中しろ。全てを一太刀で断ち切るイメージ……)
何度も何度も試したものの、発動出来たのは、今と同じく【ブースト】を発動していたあの時だけ、シェスカが運悪くブラッディウルフというAランクモンスターに襲われた際、発動することが出来たあの技でしか、今はどうすることも出来ない。
他の型と違って、唯一遠距離にも対応出来た技。
「十華剣式、漆の型、松葉翡翠の断ち!!」
開かれた彼女の口から白く輝く光線が、優真と女神目掛けて放たれる。
次の瞬間、優真は虚空を斬った。光線はまだ優真達に届いていなかった。
女神は、この状況を不味いと感じ、中断しようとしたが、優真の心が成功した事に喜んでいるのを見て、信じてみることにした。
次の瞬間、迫っていた光線は、優真の目の前で、中心から真っ二つに割れ、女神と優真に当たることなく、後方で二つの爆発音を轟かせただけだった。
「びっくりしたな~。いったいどうやったんだい?」
「松葉翡翠の断ちは斬撃を届かせる技じゃなくて斬撃を置く技なんだ。斬撃を置いたことで、置いた斬撃が光線を斬り、光線は左右に散ったという訳さ」
優真は剣を鞘にしまいながら、先程の技で起きた事を説明した。どうやら【ブースト】ありきの技みたいだが、普通の状態でも、縦に斬る技としては使えそうだと優真は思った。
「一時はどうなるかと思ったよ~。……でも、お疲れさん! お求めのものが出来たよ」
女神は手に持っていた輪っかを優真に向かって投げる。それを受け取った優真に女神から説明が入る。
「そいつを彼女の首に当てれば暴走の解除は保証してあげるよ……じゃあ私は安全なところから見守ってるから後頑張ってね~」
「他人事かよ……まぁ、こんなところにいても邪魔になるとでも考えたのかな?」
優真は眷族の輪を左手に持ちながら、ファルナの方に近付いていく。
ファルナは警戒するようにうなっており、その姿に初めて会ったあの日を思い出す。
手伝うと言いながら皿を割るし、起こす時にシェスカと一緒にフライングボディアタックをしてきたし、布団は毛だらけにしたり、引っ掻き傷をつけて使い物にならなくするし、いいことなんてあったか疑問に思えてくるが、別にそんなことはどうだっていい。たった1日だけだったけど、楽しかったことに代わりはない。
俺が求めるのは彼女と共に暮らしていくメリットじゃない。
楽しい日々を一緒に笑って暮らすために、彼女を仲間にする。
「十華剣式、壱の型、菊一文字」
優真は一瞬で彼女の背後に移動していた。その一瞬を目視することも、反応することも出来なかったファルナの首には、優真が持っていたはずの眷族の輪が装着されていた。
そして眷族の輪はまばゆい光を発し始め、彼女の姿を見えなくしてしまう。
光が徐々に消えていき、そこにいたのは、大きな白き猛虎などではなく、白い髪に獣耳を生やした少女が一糸纏わぬ姿でうずくまったまま、地面に倒れていた。
優真は彼女のもとに急いで駆け寄り、安否の確認をするが、可愛い寝息を立てているだけで外傷も特に見当たらなかった。
つけたはずの首輪も、目視する事は出来なかった。
優真は自分の着ていた上着を、ファルナに纏わせ、そのまま抱えあげようとすると、その瞑っていた目がゆっくりと開けられた。
ファルナは自分が羽織っている上着に疑問を抱きながらも、体を起こそうとする。まだふらふらしている彼女の体を優真が支えると、少女の紅い瞳は優真の方に向く。
「…………お兄さん? なんでここに?」
まだ混乱している様子のファルナに、本当のことを言うのは気が引けた。
「……まぁいろいろあってここに来たら、裸で寝ているファルナを見つけてな。こんなところに寝てたら風邪ひくぞ?」
「……そっか。お兄さんは、こんな僕にも優しくしてくれるんだね。……ごめん……お兄さん達に……たくさん迷惑かけちゃった。……ごめんな……さい。僕……麒麟様に捨てられて……自分が抑えられなくて……暴走したんだ」
(なんだ……意識はあったのか……)
泣きじゃくるファルナは、何度も何度も腕で涙を拭うが、涙は止まらなかった。
「まぁ……ここの人達はそう簡単に許してくれないかもな。それでも、俺が一緒に謝ってあげるからさ。だから一緒にごめんなさいしにいこうな?」
ファルナは涙を目に溜めながら、何度も無言で頷いた。




