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苦しみだしたファルナの体がいきなり光りだした。
そしてその姿が徐々に巨大化していき、彼女の肉体は、一匹の獣になっていく。
鋭くとがった目付き、白く綺麗な毛並みに刻まれた黒い紋様、うなり声を出すその口には鋭く尖った牙がついていた。
その姿は、白き虎。中国での伝説上の生物、西方を守護することで有名な四神、『白虎』だった。
そのあり得ないと言いたくなるような光景に、どうすればいいのかがわからなくなった。
本音を言えばものすごく逃げたかった。相手は神と呼ばれるような存在。満身創痍の俺が勝てる見込みがないといっても過言ではないだろう。
「いや……彼女は確かに白虎の姿をしているが、ただの先祖帰りであって本物はとうにその身を神に捧げているよ」
「……心を勝手に読むなよ……まぁ今はこんなこと言ってる場合じゃないよね。どうすればいいんだ?」
「どうしたい?」
今も大きくなっていき、今にも牢屋を壊しそうな白虎に目を奪われていた俺はその質問をしてきた女神に視線を向ける。
女神が向けてくる瞳が俺のことを見透かしているように思えた。
心を読んで俺の気持ちを知っている癖に声で聞いてくる彼女の意図がわからなかった。
「……どうせ読まれているだろうし、言ってやるよ。そりゃあ今すぐこんな場所から逃げ出したいよ。こんな俺ではあのでかい足に蹴られた瞬間お陀仏だ……でも……それでもシルヴィ達をこんなところで死なせたくないっていうのも本当なんだ。シルヴィ達だけじゃない。ここにいる全ての子ども達にだって未来がある。こんなところで誰も死なせたくない!」
「まったく……彼女達も聞いているというのに、逃げたいなんて言うとは思わなかったよ。まぁ、本当は今すぐにでも安全な場所にいてほしいと言うのが君の主神としての本音なんだ。
……だが、子どもを司る女神として君にしか頼めないことがある。でも君ならきっとやってくれると信じてる。我が眷族雨宮優真に命ずる……彼女を助けてあげてくれないか?」
その言葉が示すのは、間違いなく白虎化したファルナのことだろう。
「……またものすごい無茶ぶりしてくるなぁうちの主神様は……まぁ、元々その予定だったから別に受けるのは構わないんだけどさ……それであんたに何の得があるんだ? ……さっきも暴走する前にとか言ってたし」
「損得なんて神からしたらちっぽけなものさ。私達は気分や掟に従って動くからねぇ。今回は単純に可哀想だと思ったんだよ。……そもそも彼女はね、四神と呼ばれた存在の生まれかわりだ。彼女達四神は麒麟と呼ばれる存在の眷族になる予定だった。今までは眷族の見習いとして生きていたんだが、その数々の眷族として相応しくないやられっぷりに麒麟がついに彼女から眷族としての地位を剥奪したんだ。……それが暴走の原因なんだよ」
「……眷族見習いねぇ……なんか急に親近感湧いたな。ならどうする? その話が本当ならどうしようもないんじゃないのか?」
「……そうだね。きっとこのまま押さえつけても、もう彼女がまともな生き方を歩む方法はない。だが、方法が0という訳じゃない。今回は非常事態だし……だからシルヴィちゃん達には悪いんだけど……彼女を先に私の眷族として上書きする!」




