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「さて……我々『救世の使徒』とは何か、についてあなた方に言わなければならないでしょうね。第一にこの組織は私的な理由で作ったものではないことをご理解いただきたい。先程も言った通り、私は単なる支援者で、やることと言えば彼女達の相談相手、または武器の調達くらいですかね」
「そういえばホムラも変な銃を持ってたな」
「ええ……銃に関してもいろいろ貿易とかで調達しています。ご安心ください。神に誓って変な真似はしていません」
優真はその言葉を聞いて女神の方を確認すると「信じていいよ」と彼女に念を押された。
「信じてもらえたところで、この組織がどういう活動をしているかの説明に入ります。私達は、子どもを不当に扱う輩にそれ相応の罰を与えているだけです。子どもを裏で売買している組織や職場は例外なく潰してきました。
もちろん、誰にでもそうしている訳ではありません。
第一に不当な労働を強いる大人に罰を与えよ。
第二に権威を使って犯罪を隠蔽する権力者、または犯罪者に鉄槌を与えよ。
第三に私利私欲のために仲間を陥れる者には制裁を与えよ。
そして、最後に恐怖で助けを求める子どもに救いを与えよ。
これがこの『救世の使徒』が掲げる掟です」
優真の前にいるバートラムの目は、自分の過ちを理解しながらも、それでも神に対して恥ずかしいことをしている訳ではないと雄弁に語っていた。
「それって犯罪者のような行動をしているってことですよね?」
万里華の言葉は優真もシルヴィも感じていることだったが言えなかった。言いにくいことだったとしても彼女にはそういうのが許せないという気持ちがあることは優真にもわかる。だが……。
「万里華が言ってることは間違いじゃない……だが、それを言うのは良くないよ」
「優真……でも……」
「言いたいことはわかる。きっと彼らは人を救う過程において、多くの人を悲しませることもあったんだと思う。でも彼らを間違っているとは思えない」
「……どういうこと?」
「例えば大人がむかつくという理由で子どもを突き飛ばしたりしたらどう思う?」
「当然文句を言うよ! 子どもを突き飛ばすなんて許せないよ!」
「……うん。でも俺だって子どもを3人突き飛ばした。運良く子ども達はかすり傷程度で済んだかもしれないけど、当たり所が悪かったら命を落としていたかもしれない」
その沈んだ声で言った優真の話を聞いた瞬間、万里華の顔色が青くなっていった。
「で……でも! あれは優真が子どもを助けようとしたからであって!」
「そうなんだよ……俺は咄嗟の判断で自分の命を犠牲にして子どもを3人助けたということになっている。ニュースを見せてもらったけど、俺のやったことを間違っていると言った人はいない……でもね。その状況を頭に入れなければ、俺も子どもを突き飛ばしたという結果なんだよ。例に出した男と同じでね」
「ち……違っ!」
「そう言ってくれるのはありがたいけど、結局は同じなんだよ。違うのはその状況……むかつくという理由と人助けという理由……状況が違うだけで人は正しいか間違っているかを決める……でも一概にそうとも言えない人はいて、その状況を客観的に見て結果論だと言う人もいる……俺も彼女達が私利私欲のために人を殺し、金銭を奪うという行為をしているというのなら、万里華と同じように間違っていると言っていた……でもそうじゃないんだろ?」
その問いかけは一人立っているホムラに向けられたもので、ホムラもその意図に気付く。
「当然だぜダンナ! 私達は信念を持って今も困っている子ども達のために動いているんだ! 金や権力のために人を傷つけるようなゲス野郎とは違う!!」
「俺もそうだ……ベラキファスという男を、シルヴィを助けるという理由で殴った。その行為に後悔はしていないし、今も間違っているとは思っていない」
そして優真はホムラに向けていた視線を万里華に戻す。
「……今の話を踏まえたうえで、万里華の意見を聞きたい。万里華は俺と『救世の使徒』をどう思う?」
うつむいたまま、悔しそうな涙を浮かべる少女は、ゆっくりと閉ざしていた口を開いた。
「……ずるいよ優真……。私に優真が否定出来る訳ないじゃん。ねぇホムラちゃん……あなた達は本当に間違ったことはやっていないって言える?」
「もちろんだ! 私は私にしかできないことをやるために、この剣を振るう。そう救世主様に誓ったんだ!」
ホムラは万里華からの質問に自分の剣を引き抜き、顔の前に持ってきながら、万里華だけでなく、この場にいる全員に向かってそう言った。




