15-8
「バートラム博士……すいません騒がしくしてしまって……」
その男は無精髭を生やした栗色の髪の男だった。
ぼさぼさになった髪をかきむしりながらやって来ていた決して若くはないであろう男に、先程隊長と呼ばれていた少年が頭を下げて謝る。
「いいんだよキョウ君……ここはいつだって騒がしいからねぇ。にしても……聞き慣れない悲鳴が聞こえてきたと思って来てみれば……ホムラ君が騒いでいたのか……珍しいね」
白衣の男はへたりこむホムラに向けていた視線を横に立っていた俺に向けてきた。
「そちらはお客さんかな? ……私はバートラム。彼女達『救世の使徒』を支える支援者のような立ち位置にいる……どうかよろしく」
緩やかな口調でそう言ってきた白衣の男は俺に向かって手を差し出してきたので、その手を握って握手を交わす。
「俺は雨宮優真です。気軽に優真と呼んでください」
「わかったよユウマ君……ところでそちらのお嬢さん方は……!?」
バートラムさんは俺と一緒に来ていた4人に視線を向け、シルヴィを見た瞬間、糸目を見開き、顔を強張らせた。
「…………サナ?」
「えっ!?」
バートラムさんはそう呟くとシルヴィの方に走っていき、その肩を掴み始めた。
「サナ! 無事だったんだね! 私が君をどれだけ心配していたと思っているんだ! 何故今まで連絡の一つもくれなかったんだ! …………サナ?」
シルヴィの本気で怯えている様子を見て、バートラムさんは強張っていた顔が元の優しそうなおじさんに戻っていく。
俺は間に入って止めようとしていたが、女神が手だけで制止してきたため、やむなく静観することにした。
「なんで……お母さんの名前を知ってるんですか?」
「お母さん? ……ということは君がサナの助けたかった娘か……驚かせてすまない。君の姿が若かった頃の君の母親と瓜二つ過ぎて間違えてしまった……君のお母さんは元気かい?」
その質問にシルヴィは哀しそうに首を振るだけだった。
「…………そうか……連絡がなかったからとっくに諦めてはいたが……残念だよ。大事な妹だったからね……」
「妹? ……ということはバートラムさんってシルヴィの伯父ってことになるんですか?」
「まぁ……そういうことになるね……そうか……シルヴィちゃんって言うんだね……サナによく似て美人な子だ……さっきは驚かせてしまって本当にすまなかった」
「い……いえ……私もお母さんのお兄さんに出会えて嬉しいです……てっきりシェスカしか家族はもういないもんだと思っていましたから」
「そうか……あの子がシェスカちゃんかい? なるほど……これは将来有望な子どもだね……しっかりと栄養のある物を食べさせなきゃ駄目だよ、ユウマ君」
バートラムさんは、俺の背中で安らかな寝息を立てているシェスカを優しい目で見て、その目を真剣なものに変えた。
「ええ……わかってますよ」
俺が彼の真剣な目に面と向かって返事をしたことで、彼はホムラの方に体ごと向けた。




