15-5
「お前の負けだ。おとなしく敗北を認めて俺に関わるなよ」
優真が剣を奪った少女達に返した後に、顔を隠している少女に向かってそう言った。
布をめくる気はない。同じ失敗を二度も繰り返したら、完全にそれ目当てだと思われかねないからな。
「殺せ……弱い私に存在価値などない」
へたりこんでいた少女は、項垂れながら弱々しい声でそう言ってきた。
「はいはいそういうのいいから。そもそも俺は君の死体なんか興味ないし……」
勢いよく顔を上げた少女の瞳には驚きが見てとれた。
「よく言った優真君! 命を狙われたというのにその相手を許すという慈悲深さに感服したよ!」
いつの間にか優真の隣に立っていた女神は、優真の頭を撫でようと必死に手を伸ばすが、その身長差のせいでなかなか届かなかった。
「……優真君さぁ……そういう時は屈んでちょうど良い位置に頭を持ってくるのが定石だよ? ……そういう気遣いができないから高校時代とか中学時代にモテなかったんだよ」
「余計なお世話だ……」
いっそのこと、【ブースト】で威力を上げた拳骨を食らわせようかなと優真が考えていた時だった。
「……あなた達はどういう関係なんだ?」
先程隊長と呼ばれていた少年が、声をかけてきた。
「主従関係だ!」
「…………誠に遺憾ではあるが……それで間違ってはいない」
「いや優真……眷族は神にとっての家族であって決して主従関係じゃないよ?」
「そうなの? ……一応家族らしいぞ……?」
優真が万里華に向けていた視線を少年に向けると、彼の顔がみるみるうちに青くなっていき、ついには震え始めた。
「け……眷族!? ……何故そのようなお方がこのような場所に?」
「別にどうでもよくない?」
「そ……そうですよね。気を悪くされたのでしたら申し訳ありません!」
(さっきまでの態度とはえらい違いだなぁ……)
その勢いよく謝る態度がいたたまれなくなってきた優真は少年に頭をあげるよう言ってから、気にしていないという旨を伝えた。
「差し支えなければもう一つお聞きしたいことがあるのですが……よろしいでしょうか?」
襲いかかってきた彼の仲間達が徐々に目を覚ましていくのを尻目に、少年がそんなことを聞いてきた。
「君ってさぁ……そんな感じの口調だったっけ? もうちょっと偉そうな感じじゃなかった?」
「いえ……確かに最初はなめられてはならないという意図もあり、あのような態度を取っていましたが……我々は貴方に敗北した身……そんな状況で偉そうな態度は取れません。我々の命は貴方様の気分次第で消えるろうそくの火みたいなものですから……」
「……そんな脅すつもりはないんだけどなぁ……まぁいいか……それで? 何が知りたいの?」
「許可をいただき感謝します。……不躾な頼みであることは重々承知の上なのですが……その……あの御方がどのような神かを教えていただきたいのですが……」
「よくぞ聴いてくれたな少年!」
その質問は隣で不機嫌な顔をしていた女神にとって、復活する程嬉しい質問だったらしい。
女神はいきなり立ち上がり、全員を視界におさめるような場所に移動した。
「恐れおののけ! 私こそがかの有名な子どもを司る女神であるぞ! 皆の者頭が高~い!」
その言葉が放たれた瞬間、優真と優真に後ろから抱きついていたシェスカ以外の全員が平伏し始めた。




