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「うわぁ! これが商店街といわれるものなんですね!」
近くの商店街に着いたシルヴィの第一声は、予想外の声量で放たれたものだった。
あまりにも大きすぎて、周りの視線が集まってくる。
「……シルヴィ……興奮する気持ちもわからない訳ではないが……あまり大きな声を出したら駄目だってば」
「そ……そうでした。すいません……」
「いや……これから気をつけてくれればいいよ…………シェスカは?」
シルヴィが小声で謝るのを聞いた途端、少し違和感を覚えた。
あの初めて見たものにはなんでも関心を示し、いの一番に驚きの声をあげそうな彼女が一切声をあげなかったのだ。
シェスカが妙に静かなことを不審に思った俺は、そこでようやく本人の不在に気付いた。
商店街に入る前は傍にいたから、まだ近くにいるはずだと思い、周辺を探してみると案外すぐに見つかった。
彼女はクレープ屋の屋台で20代くらいのお姉さんからクレープをもらっていた。
「ねぇシェスカちゃん……君はお金持たせてないんだから……勝手に食べちゃ駄目だろ?」
優真は優しく注意するのだが、なぜ注意されているのかがわかっていないのか、シェスカは首を傾げながらクレープを食べている。
「これ甘くて美味しいよ~? お兄ちゃんもいる?」
「……いや、一人で食べていいぞ…………すいません。迷惑をおかけしてしまって……おいくらですか?」
「お金なんていいんですよ~。私からのおごりなんですから~。その子……妹さんですか? 可愛らしいお子さんですね」
「え……ええ、どうも」
営業スマイルを絶やさずにその女性が言った言葉を適当にごまかしつつ、優真は隣で飾ってあるクレープを熱心に見つめる少女を見て、懐から財布を取り出した。
「それならせっかくなんでもう一つください。……どれがいい?」
「えっ? そ……そんな……悪いですよ。私……我慢ぐらいできますから」
「気にしない気にしない……せっかくの初めてなら楽しい思い出の方がいいだろ? な?」
「そ……それなら……これをお願いできますか?」
彼女が指を指したのは、その店で一番安いものだった。
「はぁ……その隣にあるチョコとバナナとクリームがのってるやつで」
「そ……そんな高いものいただけません!」
「いいんだよ。俺のお気に入りをせっかくなら食べてもらいたいし……あんなこと言ってバターとシュガーだけのやつをおごったりなんかしたら女神様から心狭いやつって笑われるだろ?」
「はいお待ちどうさま! バナナチョコクリームだよ! 良かったね。彼氏さんいい人で!」
「あ……ありがとうございます」
シルヴィはそわそわしながらクレープを受け取ると、俺の方を見始めた。
「気にせずお食べ」
「ありがとうございます」
そう言ってクレープにかぶりついた彼女は、とろけそうな笑顔を見せた。
その顔を見ていると買って良かったとそう思えた。




