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湯槽に入った4人は風呂に入ってから一時の間は、なかなか会話をすることはなかった。シェスカは初めての広いお風呂に興味津々で泳ぐのに夢中だった。普段は注意する優真はといえばそれどころではなかった。
自然の景色を眺めている優真ではあったが、何故か目の前には隠す仕草を見せないハナがおり、できるだけ見ないように心掛ければ、まったく視界に自然が入らない。
それでも優真は、冷静さを保っていた。いや、保とうとしていた。
◆ ◆ ◆
元々開放的なのか気にしていないのかわからないハナさんはともかく、シルヴィまでもが最早隠そうともしない。
俺の隣を陣取ったシルヴィは、先程から俺の様子を伺うように何度もこちらをちらちらと見てくる。
だいたいさっきまであんなに隠していたというのに……いったいどういう心境の変化だ?
そうか……これはきっと試されているのか。
ここで性的な暴行に出れば、俺は信用されないという仕組みなのだろう。むしろ、これから共に暮らしていく人が、結婚する前に女性を犯そうとする人なら、あんな怖い目にあった彼女にはもはや他の男と同じく恐怖の対象にしかならないだろう。
ならば……ここは堪え忍ぶべきだな。
どんなに理性が飛びそうな瞬間でも、俺は手を出さないようにしないと!
優真がそんな決意をしている一方、先程からアピールし続けているシルヴィはというと……
(私ってそんなに魅力ないんでしょうか……。恥ずかしいのを我慢して胸を隠すのやめたのに……ユーマさんがこちらを見てくれようともしません。……やっぱり男性の方はハナ様のような綺麗な方が好みですよね。私みたいな地味な子が本心で選ばれる訳がないですよね……きっとユーマさんもハナ様とお近づきになりたいでしょうし……)
という感じで自虐的になっていた。
そんな感じでまったく会話を交わそうとしない二人は、そのまま数分の間、きまずい空気を作るだけで何もすることはなかった。
「そういえばここの旅館ってさ……俺の故郷によく似たものがあるんだけどいったい誰が建てたの?」
「……やっぱり……」
「何か言った?」
「い……いえ! なんでもありませんから、お気になさらず!」
先程から気になっていた質問をハナさんに聞くと隣のシルヴィが何かを呟いてくるのが聞こえた。そのため声をかけたのだが、彼女がなんでもないというなら、俺に声をかけたのではないのだろう。
景色を堪能していたハナは、二人の様子を見始める。
「この家は私が使わせてもらっている家なの。ほとんどの雑用は天使がしてくれるからね。旅館っていう名前じゃないよ」
「そうなの?」
「そうだよ。この家はね女神様がこことは異なる世界の気に入ったものを神の力で造り出しただけにすぎないんだよ。だからこの家は誰かが建てたのを完全に似せただけにすぎないっぽいんだよね~。ちなみにこの風呂場は私がいろいろと改造したから自慢の一品だよ。どうシルシル?」
「う……うん、気持ちいいよ」
優真にはその受け答えにあまり気持ちがこもっていないように思えた。普段は、どんな適当な質問でもしっかりと考えて返すシルヴィが、珍しく上の空で答えている。
(……やっぱりシルヴィも恥ずかしいんだろうなぁ)
結局シルヴィは、何をするでもなく湯槽からもすぐにあがってしまった。
ハナさんも長時間は入っておらず、俺はシェスカが満足するまで風呂に入っていた。
明日の投稿はいつも通りの時間には行えない可能性があります。朝から少し電波の無いところに行くんで。つながりそうなら投稿しますが、遅れる可能性、または早まる可能性大です。




