13-3
おそるおそる顔を背の低い少女から上の方に向ければ胸を腕で押さえて隠している真っ赤になっている栗色の髪をおろした少女と、その背後からこちらを興味深そうに見てくる桃色の髪の少女が立っていた。
こんなことに備えていた訳ではないが、岩陰に隠れた際、頭に乗っけていた白地のタオルで腰を巻いていたから、俺の大事なところは彼女達に見られないで済んだ。
「な……なにしてるんですかユーマさん? な……なんでこんなところに……」
もはや逃れるなんてことはできない。
彼女達のものを見てしまったうえに、岩陰に隠れていたのだから言い逃れできるはずがない。……このままでは、シルヴィとの関係にも傷ができてしまうかもしれない。……その前に死ぬ可能性の方が高いんだけどな。
「すまない。本当に覗きをしようとしていた訳ではないんだけど……見てしまったことは事実だし言い訳はしない!」
「じゃ……じゃあなんでこんなところに?」
「そ……それが……どうやらこの温泉は混浴みたいでさ……先に入ってたら皆が入ってきたんだよ」
「ほ……本当ですか?」
「嘘はついてない! なんなら神に誓ってもいい」
この世界で神に誓うという言葉は重い。もし、偽りを申していた場合、本当に神から天罰が下るからだ。
しかし、そう言った俺には何も起こらなかった。
「ど……どうやら本当みたいですね……。良かったです……ユーマさんが覗きをするような変態さんじゃなくて」
シルヴィが見せた慈悲深い笑みにこの状況も相まって心臓が波打ってしまった。
「わ~い! お兄ちゃん一緒に入ろ~」
しかし、シルヴィと優真の話を邪魔しないようにうずうずしながら見ていたシェスカに抱きつかれて、視線は下の方に行く。
「いやシェスカ……お兄ちゃんはそろそろ上がらないとまずいから、また今度な?」
「え~なんで~?」
その言葉は意外なことにシルヴィの隣で、恥ずかしがることなく裸体をさらけ出しているハナさんの口から放たれた。
「……いやだって、男の俺が一緒に入る訳にはいかないだろ?」
「え~別に気を使わなくても大丈夫だよ? それともお風呂が気持ち良くなかったの?」
ハナさんの表情には意外なことに怒りの色が少しも見えなかった。
それどころか、俺を風呂に居させようとしている。その蒼い瞳を見ても何が目的なのか俺にはまったく意図が読めなかった。
「……なぁ……シルヴィからもなんか言ってやってくれないか?」
「ちょっ……ちょっと離れて下さい!」
「………………だ……だよね……。俺みたいな変態が近付くのは迷惑だよね……うん、ちょっと首吊ってくる……」
ハナさんに聞こえないようシルヴィに寄って相談すると、思いの外、本気で拒絶されてかなりショックを受けた。
彼女の言葉に本気で死にたくなった俺をシルヴィが慌てて止めに入る。
「ち……違うんです! ユーマさんが嫌なんじゃなくて! ……男性の裸は初めて見たので……その……少し恥ずかしくて……」
そのもじもじとする仕草が異様に可愛過ぎて、ちょっと別の意味で今すぐこの場から去りたくなった。
「ねぇ別にシルシルも良いよね~? 別に何か減るもんじゃないし~ユウタンだってきっと心の底では皆と入りたいに決まってるよ~」
「そ……そうなんですか?」
シルヴィのまっすぐな瞳が俺を見つめてくる。
頬のあたりも真っ赤だし、涙目になってるし……そんな目で俺を見ないで!
「あ~! 目を逸らしましたね! ユーマさんも本当はハナ様の綺麗な裸が見たかったんですね!」
「違うってば! とりあえずシェスカを引き剥がしてよ! そんで早く俺を出させてくれ!」
「や~! シェスカ、お兄ちゃんと一緒に入る~!!」
シェスカが俺の背中にはりつきながら首に手を回して離れようとしてくれず、力づくはさすがに怪我をされては困るため、もはやシルヴィがシェスカを説得して離してもらうしかない。
すると、ハナさんがシルヴィに耳打ちし始めた。
何かぼそぼそ言っているのは聞こえたが、さすがに内容まではわからなかった。それでも、シルヴィの表情がイチゴのように赤く染まれば、何を言われたのか滅茶苦茶気になる。
「ユ……ユーマさんも一緒に入りましょう」
いきなり震えたような声でそんなことを言い始めれば、俄然気になってくる。
「おい! シルヴィに何言ったんだよ!」
「内緒~」
ハナさんは口に人差し指を当て片目を閉じる仕草でそんなもったいぶるようなことを言ってきた。
だが、更に問い詰めようとした瞬間、シルヴィに左腕を掴まれる。その腕に感じる感触に我を失いそうになるが、舌を噛んで必死に理性を保つ。
「は……早く入りませんか? ……身体が冷えて寒いです」
そんなことを好きな人に言われて拒否できる訳がなく、俺は結局湯槽に戻された。




