12-3
「……別に構わないよ? いちいち確認する必要もないし、基本的に可か不可かは聞いてから決めるし」
シルヴィの確認に対して優真はそう答えた
「わかりました。……私をおばあちゃんの墓に案内していただけませんか?」
「……え? ……大丈夫なのか?」
優真の大丈夫かという質問に対して、シルヴィは静かに頷くだけだった。
「私はおばあちゃんが処刑されている時に連れていかれましたから、しっかりとお別れが言えてないんです。……だから……どうかお願いします!」
シルヴィの頼みは優真にとっては意外なものだった。
身内が死んだ現実をすぐには受け入れられない人は少なくないと聞く。現に由美からの手紙には、母さんが俺が死んだ現実を受けとめきれないで、俺を捜索していると書いてあった。
俺だって幼い頃に亡くした父さんの死を受け入れたのは父さんが死んだ三年後だった。
その間、一度たりとも墓参りに行こうとは思えなかった。
墓参りに行かなければ……信じて待っていれば父さんがいつか帰ってくるんじゃないか……という幼い俺の抵抗だったんだと思う。
そう考えるとシルヴィは俺が思っているほど弱い存在じゃないということだ。
(それなら教えた方がいいか……)
優真はハルマハラから聞いていた情報を思い出す。
(……確か聖域っていうところに墓を建てるって言ってたような……)
あの時は優真自身他の情報を頭にいれていられる程の余裕がなかった。
とはいうものの、さすがにその情報は重要だったこともあり、うろ覚えではあったものの、一応は覚えていた。
「……ハルマハラさんが言うには、婆さんの墓は聖域と呼ばれているところに建てるそうだ。俺にはそこがどこかはわからないんだがーー」
「いえ……それだけ聞ければ充分です。私の予想が正しければ場所も間違いないと思います。ユーマさんの傷が治り次第行こうと思うのですが……いかがですか?」
「じゃあ今日行くか」
その言葉が優真の口から放たれた瞬間、シルヴィは時が止まったかのように硬直してしまう。
とは言うものの、その時間は存外短いもので、ふとした拍子に少女は現実へと戻ってきた。
「…………えっ? 今なんて言いました?」
「今日行くってとこ?」
「そうです……じゃなくて! だめじゃないですか! ユーマさんは昨日あんなに血を出した挙げ句、【ブースト】が切れた途端、絶叫をあげて倒れたんですよ! それなのに1日で完治する訳ないじゃないですか!! もしかして……また私のために無茶しようとしてるんですか? だったら……私のことは気にしないでください……私はユーマさんが治るまで待ちますよ」
「だったら確認すればいいだろ?」
シルヴィが怪我人を労るような瞳で見てくるので、優真は自分の包帯をとっていく。
その下にある生々しい傷の跡を見るのが怖かったため、シルヴィは目を逸らした。
昨日は一応包帯を巻いたが、その傷をほとんど直視することは出来なかった。
「ほら! 傷ないだろ? ……ってちゃんと見ろよ!」
席を立って包帯を外し終えた優真は、目を逸らすシルヴィにそう言うが、シルヴィは血を見るのが怖いと言ってなかなか見ようとしなかった。
だが、最終的にはシェスカが「大丈夫だよ……ほんとに傷ないよ」と言って説得したことで、シルヴィも決心した。
「……本当は結託して私を驚かそうとしているんじゃないですよね?」
目を両手で隠し未だに疑ってくるシルヴィの姿に優真はため息を吐いた。
「いいからさっさとしてくれ……さすがに寒い……」
「う~……わかりました……」
シルヴィは視界に映る両手をどかして、優真の傷があった位置を確認した。




