12-1
その日はすんなりと目が覚めた。
布団から這い出て、カーテンがかかったままの窓へと向かう。
カーテンを開くと朝の日差しを眩しく感じるだけで至って普通の町並みだった。
どうやら何事もなく一夜が明けたようだ。
あれから道に迷いはしたものの、元々ハルマハラさんからもらっていたメモを頼りに、この家に着くことはできた。
2階建ての建物で3人で暮らすには少し広すぎる気もしたが、隠れ家としてはうってつけだった。
ただ、家を見つけた直後、【ブースト】の副作用にあわせて大量出血もしていたからか、一切の身動きがとれなくなってしまった。
そんな俺を治療してくれたのはシルヴィだった。
シルヴィはこの家に置いてあった救急箱を持ってきて怪我の手当てを丁寧にしてくれた。
多少おぼつかないものの、彼女がいてくれたお陰で生きているといっても過言ではなかった。
【ブースト】という能力で自分の回復力も上げていたからか、意外と治りが早かった。そのため、夜には最低限は動けるようになっていた。
シルヴィがどこからともなく尿瓶を持ってきた時は驚いたが、使わずにすんで良かった。
俺達3人が滞在することとなったこのカナルヤという町には比較的に若者が多い印象を抱いた。
活気のある町で今使っている家の近くにも商店街のようなところがある。
あいつの屋敷はあるものの、国全体の動きが見易いうえに冒険者ギルドの支部もあるのだから、一時的にだが、ここに住むこととなった。
家の近くに兵士の影が見当たらないことを確認し終えた優真は窓から離れ、隣に敷かれた布団内で眠る二人を起こしにかかろうとするが、そこにはシェスカの姿しかなかった。
その状況に優真は顔を真っ青にし、急いで扉を開け放って、今いる2階から1階に音を立てながら向かった。
◆ ◆ ◆
優真は1階にある部屋の扉を開けた。
「……どうしたんですか? そんなに慌てて……」
そこには、栗色の髪を肩の辺りまで伸ばした若い少女がエプロンを着けて朝食の準備をしていた。
その少女は慌てた様子の優真を心配してそう声をかける。
優真はシルヴィの無事な姿を見て心の底から安堵した。
「……いや、布団の中にシルヴィがいなかったから……どこかに連れていかれたのかと思ったんだ」
昨日の今日でそんなことがあるはずないとは思っていながらも、どうしてもシルヴィがいなくなったという事態が俺から冷静さを奪った。
目の前にいるシルヴィは、そんな俺を小さく笑った。
「ふふっ、ありがとうございますユーマさん。……でも安心してください。私はもう一生ユーマさんとは離れませんよ」
シルヴィは火を消して俺の方に近付いてくると、俺の頬にくちづけしてくれた。
彼女の言った言葉が今の俺には嬉しくもあり、悲しくもあった。




