11-9
ナイフが肉体に刺さる生々しい音。それを至近距離で聞いたシルヴィは我に返った。
「な……なんで?」
シルヴィが刺した相手はベラキファスなどではなく、【ブースト】でスピードを上げて二人の間に入った優真だった。
シルヴィは狼狽えながら、ナイフを優真の腹部から引き抜き、よろめくように後退りをした。
引き抜いた際に出てきた優真の血が、シルヴィの顔を青ざめさせていく。ナイフを地面に落とし、空いた両手で顔を覆ったシルヴィは悲鳴を上げた。
シルヴィの姿を朦朧としていく視界で捉えながら【ブースト】によって回復力を上げて止血を試みるも、疲労と出血による痛みのせいでなかなかうまくいかなかった。
「……そんなっ! 嫌っ! ……私はただ……ユーマさんに生きていてほしくて……」
「……やめろシルヴィ! 俺はシルヴィにこんなことをしてほしいなんて望んじゃいない!」
「……でも、この男と私が生きている限り、ユーマさんや村の皆にも迷惑をかけてしまうんですよ!」
「それがなんだ! 俺にはシルヴィが大切だし、お前を取り戻すためにここまで来たんだ! ……それなのにお前が死んだら意味ないだろ!!」
「……じゃあどうするんですか!! ユーマさんもシェスカも村の皆も失ったら、本当に私は一人になっちゃうんですよ!! …………私はもう……大切な人を失うのは嫌なんですよ……」
シルヴィの目から溢れ出る涙の量が増えていく。
自分を助けるために無茶をして死んでいった両親。ずっと自分を庇い続け、最後は目の前で処刑された祖母。
大切な人は自分を助けたせいで死んでいく。このままだと大切な人と大切な妹まで失ってしまう。そう思っての言葉だった。
しかし、その言葉がシルヴィの口から放たれると、優真はシルヴィを抱き寄せて、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
「…………えっ?」
頬を赤く染めたシルヴィは、優真がとったいきなりの行動に動揺を隠せないでいた。
優真の頬も赤く染まっていたが、その目は真剣なものだった。
「……絶対に俺がシルヴィを一人にしない。どんなに辛い時だって、どんなに苦しい時だってお前の側にいる。俺はそう思えるくらいシルヴィのことが……その…………好きなんだよ!! だからシルヴィ……一生俺の傍に居てくれ!!」
その思いがけない告白に、シルヴィは雨粒のような涙を流しながら何度も頷いた。




