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その言葉で優真はやっと事の真相を知れた。
(……皇子かよ。…………なるほど……変装か……これはやってしまった)
彼に駆け寄った老人騎士と違い、他の3人がこちらに先の尖った槍を構えるのを見て、優真はその真実をあっさり受け入れた。
(……ということは、中にいたのは皇子の代わりか? 表向きは令嬢の護送で、本当は皇子のお供って訳か。……にしても困ったな。……このままじゃ、足止めどころかもっと面倒なことになりそうだな)
じりじりと少しずつ詰め寄ってくる騎士達を見て、優真はため息を一つ吐いた。
「……こりゃ助けない方が良かったか?」
そうぼやいた優真は【ブースト】で自分のスピードを上げた。
「……悪いが、お前達に付き合っている暇はないんだ。敵もいなくなったんなら、俺は行かせてもらう」
その言葉を残して、優真はシェスカが指さした方へと全力で走り始めた。
「おい待てっ! 逃げるな!! ……ちょっ……速っ!?」
【ブースト】で速度を上げた優真に重そうな甲冑を着けた騎士が追い付ける筈もなく、優真は簡単に逃げおおせた。
◆ ◆ ◆
自分達の守るべき対象を殴った相手に制裁を加えるべく、勢いよく走り出したのはいいものの、先程の戦闘でも目にも止まらぬ速さを見せた男に追い付くことができず、3人の騎士は早々に諦めて、膝に手をつく。
「な……なんなんだよあいつ……速すぎんだろ! ……本当に人間か?」
「ほ……本当は身体能力特化型の獣人なんじゃないか?」
「……どうするんすか? さっきのやつに逃げられちゃいましたけど!」
「どうするもこうするも報告するしかないだろ!」
姿の見えなくなったローブの男を追いかけていた3人の騎士は見失ったことで、報告するために馬車の元まで戻った。
「なにっ!? 逃げられただとっ!? お前達、それでもパルテマス帝国の近衛騎士かっ!!」
「「「申し訳ありません!!」」」
青年を治療している隊長にそう報告すると、当然のようにお叱りを受けた。
「お前達今すぐ皇子様に攻撃してきた奴を引っ捕らえて来い! さもなくばーー」
「もういい」
その声は横たわっている青年の口から聞こえてきた。
「皇子様っ!? 目を覚まされたのですね! 具合はいかがですか?」
「ああ、どうやら加減はしてくれたようだ。少し意識は飛んだが、そこまでたいした傷じゃない。……だから、彼は許してやってくれ」
「しかし皇子様……奴は皇子様を殴ったのですよ! それ相応の裁きが必要ではありませんか?」
「その殴られた僕がもういいと言っているんだ。……それに彼は僕達を窮地から救ってくれたのだ」
「……お兄様……大丈夫ですか?」
その声は馬車の方から聞こえてきた。
そこには、金髪の少女が怯えた様子でこちらの方を見ていた。
「ああ、大丈夫だ。どうやらそっちも無事だったみたいだな」
「はい……それで…………先程の殿方はどちらにおられるのでしょう?」
金髪の少女は頬を赤らめ、もじもじしながら周りを一通り見てみると、姿がないことに気付き、男の所在を尋ねた。
それを見た金髪の青年は高笑いを始めた。
(……妹にこんな顔をさせる男か…………いつか、もう一度会ってみたいな)
青年は遠い目で空を仰ぎ、そう思うのであった。




