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宇宙の博物館

 身長150センチくらい。鈍く白く光った銀色のそれは、15年前に地球にやってきた宇宙人である。水曜日の今日、私は学校を休み、ひとり博物館に来ていた。『宇宙人の身体展』と題して、なかなかにえぐいものが展示されている。私の背よりも高い円柱状の水槽に入れられた宇宙人は、おなかの皮膚の部分が切り取られており、色こそは白っぽいけれど、人間のものと同じような形の内臓がおっひろげられている。また他の水槽には輪切りにされお刺身のように断面図が分かりやすく並べられている。人間の私が見ても、この博物館を作った人間ってなんて酷いんだろうと思う。これをおぞましげな顔で見ている宇宙人の心境たるや。中には子連れの宇宙人もおり、子どもの勉強にと軽い気持ちで連れて来たであろう母親が、子どもが展示物を見ないよう、子どもの頭を撫でながら抱っこしている。

 展示物は奥に行くほどにグロテスクになっていくようで、1Fの中ほどまで来ていた私の目の前には宇宙人の胎児から子どもになるまでの様子が、やはり水槽に入れられて展示されている。この建物2Fもあるが、2Fはどれほどグロイのか……

 周りの宇宙人の、人間(私)を見る目が鋭くなってきたような気がして、引き返そうかと思ったとき、2Fからガラスの割れる音や、男の宇宙人の怒鳴る声が聞こえた。周りの人間や宇宙人たちも何が合ったのかと騒がしくなってきた。何を言ってるのか、ここからでは聞こえないが、物が割れる音や人の叫ぶ声、宇宙人の怒鳴り声、走る足音。間もなく階段から人や宇宙人が何事かを叫びながら駆け下りてきた。

「暴れているやつがいる」

「にげろ」

 要は余りにも酷い展示物に切れた宇宙人が、展示を破壊し、人を攻撃しているらしい。私も出口のほうへ逃げながら、階段の近くで人を殴っている宇宙人をみて血の気が引いた。これは思っているよりやばいことになったのではないか。宇宙人が地球に来て15年。宇宙人は、怯え敵対する人間に対し、いつでも友好的な態度をとってきた。宇宙の技術を教えたり、宇宙人の死体を積極的に検体として渡し、人間にとって敵ではないと示していた。私は宇宙人が怒っているのを初めて見た。街中で見る宇宙人、テレビで見る宇宙人、いつみても宇宙人は穏やかに微笑んでいた。博物館の外にでると、もう人間の警備隊が十数名で博物館を囲んでいた。警備隊に保護してもらい、大きな通りを挟んだビルに逃げ込んだ。どうやら宇宙人は、暴れたものも、そうでないものも、博物館から出ないように警備隊に銃を突きつけられている。

「こりゃあ宇宙戦争になるな」

 同じく博物館から逃げたのであろうガタイの良いおじさんがポツリと言った。私はおじさんの横で呆然と博物館の方を見つめ続けた。

「気持ち悪い」

「いつかこうなると思ったのよ」

「全部殺しちまえ」

 周りの人は興奮気味に物騒なことを叫んでいる。10年前、私が幼稚園に通っていた頃、大きな事故にあった。昔なら死ぬような大事故だったが、宇宙人から得た技術で発展した医療に救われたのだと母に聞いた事がある。最近は車も列車も飛行機も、制御されほんとど事故は起きない。それも宇宙人がいたからだ。

 次第に騒ぎは大きくなり、通りを歩く関係ない宇宙人を人は攻撃し始め、博物館に追いやっていった。

 私は怖くなり、その場から離れた。宇宙戦争、おじさんの言葉が胸に重くのしかかって、私は苦しさを振り払うように足早に駅に向かった。




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 水槽の中にはほんの小指の先ほどの宇宙人が展示されており、私は広い宇宙にはこんな小さい生き物もいるのかと驚いた。『宇宙人展』宇宙の中には様々な生き物がいて、それらを展示しているこの博物館はいつでも来場者でにぎわっている。先を歩いていた父が立ち止まった。そこには青くて丸い星が描かれており、『豊かな生態系、消えた星』と題されている。

「この星はだいぶ若かったために、移民を受け入れれられず、自ら滅んだんだよ」

「みずからほろんだって、どういうこと」

私は父にたずねた。自殺という意味だろうか。

「例えばね、親切な誰かが突然やってきて、色々な親切をしてくれて、自分の生活が楽になるとする」

うんうんと私は頷きながら父の顔を仰ぎ見た。

「ありがたいな、と最初は感謝しても、いつかその親切を自分の力だと勘違いしてしまう、そうしてその親切にしてくれた人を疎ましく思うようになるんだよ」

「そんなのへんだよ」

 と私は言った。優しくしてくれた人にはありがとうといわないと。ましてその人を嫌いになるなんておかしいよ、と思った。

「そう、とっても変なことなんだけど、成長する前の、若い考えだとそうなってしまうみたいだね。自分の力が誰かによって支えられていることにも気がつかず、忘れて、そして自分が強いと思ってしまう。この星はあげくの果てに移民を自分とは異端のものだと排除しようとした」

「頭わるいんだね」

 私の言葉を聞くと父はフッと笑い、「さあ次に行こうか」と私の手を引いて次の展示物へ歩き出した。



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 運よく私は非常飛行船に入ることができた。薄暗い船内には数十人の人間がうずくまっており、轟々と音と振動を感じながら、今は月の第二住居へ向けて移動していた。まさか本当に、あの博物館での出来事がきっかけで戦争が起こるなんて。私は人間がこれほど弱いなんて思いもしなかった。あの事件のあと、私は家に返って母にあったことを話した。母は話を聞くとすぐに荷物をまとめ、田舎のおばあちゃんちに逃げるよう私に言った。

「おかあさんは仕事を少しまとめてから週末には行くから」

 母は間に合わなかった。私の住んでいた町は3日後には消え、戦争は地球全体を巻き込み、私はおばあちゃんとシェルターに隠れて生活をした。最初は人間が勝つと信じていた人たちは、すぐに己の愚かさを知った。

 船内は椅子もなく、私は床に胡坐をかいて座っていた。今はもう私はひとりだ。これから月へ行くが、住居がどのようになっているのか情報もない。宇宙人がもはや占拠しているのかもしれないし、もう破壊されているのかも。命からがら逃げた人たちはみなすすり泣いたり、お互いを励ましあったりしている。私はこれからのことを考えて、どうあってもどうにかして生きないと、そう思った。





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「ご来場ありがとうございました」

 受付の女性が声を掛ける。小さな女の子の手を引いた男性は父親であろう、聡明そうな家族だな、と受付の女性は思った。

(それもそうね、fそい;hgth星の方だもの)

「おや、アンドロイドかな」

 女に気がついた父親は驚いた。その女性が滅んだはずの星の生物にそっくりだったからだ。

「私は生き残りなんです、めずらしいですよね」

 女が人生でもう何度も言ったセリフだった。自分を展示物を見るような目も驚かれることにも慣れていた。父親が手を引いている女の子は大きく目を見開き、言った。


「おねえさんは賢くなった?」


親子の後ろ姿を見送って、私はもう一度お辞儀をした。

女の子の言っていたことは分からなかったけど、まあ彼らは大抵頭が良すぎて何が言いたいのか分からないし。展示物を眺める色々な星の人を見て、やっぱり私も珍しい星の人が来たら、じろじろ見ちゃうしなあ。ああ、たまには私と同じfじゃhl星の素敵な殿方は来ないかしらと、ため息をついた。

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