Chapter11-6
◆◆◆
「先生っ! せんせいっっ!!」
私の声は、天凪桃姫の声だった。
見つめる先、塔下の広場で私に扮した天凪先生は、真っ赤に染め上げられていた。
幾つもの剣や槍をその身に受け、制定の白い学生服は、真っ赤に染まり、袖口から鮮血を滴り落としている。
背中に刺さる槍は体を貫通して、そのまま地面の石畳に突き刺さり、植物を支える支柱のように、立つこともままならない状態の先生を、無理やり立たせていた。
「そんなっ! なんで! なんでですかっ!?」
泣きじゃくる私は、被り慣れない大きな三角帽を放り投げ、串刺しになった自身の姿を持つ、先生の両肩を掴んだ。一瞬にして、両手は真っ赤になった。
「ははっ……計算、間違えた、かな」
眼前の|霧島ゆい(天凪桃姫)は、どこか楽観的に、口と目から血を流しながら、笑って見せた。
「そんなっ……! 先生、今、今助けますからっ!」
苦しみの一つも上げない先生を見て、私は先生の左腕に突き刺さったままの、矢に手を掛けた。
「いい。いいわ……助けないで」
肘の関節近くを貫通する矢を引き抜こうとした刹那、先生はその腕を少しだけ後ろに引いて動かし、私の動きを止めた。
「なっ、何故ですかっ! た、助けないと、先生、死んじゃ……死んじゃうっ!!」
取り乱したことしか覚えていないかと思いきや、その当時の事は随分と鮮明に思い出せた。
「ゆい……あなたには、酷なお願いだと、承知よ。でも、従って、ほ、しい」
先生は、口内から溢れる血液を吐き出した。びちゃりと、血に混じって何か臓物が、石畳に叩き付けられる。
「私は、助け、なくていい。このまま、放置しなさい」
「なっ――!? 何を、言ってるんですか……?」
致死の傷を多量に受けながらも述べるその言葉に、顔に筋肉が貼り付いたのも、覚えている。
「敵の狙いは、ゆいを、殺す――ことにあったのよ。だから、助けたら、だめよ。全て、ご破算になる。……奴らは、また――」
ゲボッ。
そしてまた、先生は吐血した。それが自分の服にべっとりと付着したとは、気付かなかった。
「でも、でも――」
「お願いよ、ゆい。あなたを、あなたを救いたい……。だから――」
いつの間にか、先生の両腕が背中に回っていた。ぼろぼろになった先生の腕は、背中で震えていた。
「酷いこと頼んで、ごめんね……?」
先生は、泣いていた。
痛みや苦しみではなく、教え子に酷な事を頼んで申し訳ない。と、最後まで自分を責め、謝り続けた。
「わかり、ました。 先生、いいんです。いいんです……」
私は、先生を貫いたままの槍ごと、小柄な先生を抱きしめた。密着できない先生の身体は、全身が心臓のように速く、波打っている。
「あり、がとう――。ゆい、あなただけ、でも、助けられて、よかっ、た――」
そして先生は、私の姿のまま、息を引き取った。
最後の最後まで、先生は私を守るためだけに、魔力を身に纏い、そのまま――こと切れた。
◆◆◆