Chapter11-3
旧友の口がそう訊いたとき、「流石タケだ」と思った。それと同時に、本当に彼が、来駕タケ、本人なのだと、改めて思い知った。
チームの参謀とも言える来駕タケは“少々”頭が固い。だが、どんな状況に居ても、怯むことなく自らを律し、仲間を制し、正しい答えを導き出してくれる。私もその行動に、幾度となく助けられた。
彼の親友が、彼に対し、『俺たちが飛び出し過ぎないのは、いつも誰よりもタケが見てくれているおかげだ』と、かつて言っていたのを何度も聞いたことがある。
それは本当のことだ。タケがいて、判断をしてくれなければ、もっと早くに私は命を落としていたはずだ。
だけど、それと同時に、その一言が、タケの重みになっていることも、実は知っていた。
一人身のタケは、誰よりも久の言葉を尊重する。それは仕方のないこと。家族を守るのと同義だからだ。タケはそれを常に意識し、久だけでなく、いつも全体に気を配ってくれた。
その気配りに、甘えていたのも、また事実だ。
自分は周りのことをそこまで考えずとも、危険なラインに踏み込もうとすれば、それをタケが止め、律してくれる。どこかその、絶対安全圏とも思えるタケの思考範囲から出なければ、自分たちは本当に怪我一つ負う事は無かった。
(あぐらを、かいていたわね……)
自分で思案するよりも、タケの方が優れている。私がやるよりも、ずっと良い。
そんな考えを、そんな甘えを持っていたからこそ――
『ジョゼ、いいから、逃げろ!』
タケを、死なせたのかもしれない。
あの時自分は、戻ることをしなかった。タケに提示された、“最善の選択”に従った。
戻ることだって出来た。あと二、三枚くらいなら、手裏剣を投げることも出来たかもしれない。
だが、私はそうしなかった。
結果、私は生き延びた。二人に逃がしてもらい、相棒の手裏剣使いに命を救われて。
幾度となく、もう一度、彼らと会いたいと願った。どんな犠牲でも構わないと思った。三人との思い出を、血と泥の記憶で終わらせたくない。記憶の終着点を、そこから離したい。と
(だから、この子たちは私への最期の祝福、幸運なのね)
私の願いは、今、ここに叶った。
目の前に現れた彼らは、あの時死んだ年齢にとても近い。それが幸か不幸か分からない。
だが、こんな世界になってもなお、崩れかけたユーミリアスの地下に潜って生きながらえてもなお、最後の幸運に巡り会えた。過去の自分に武器を託すこともできると言う、大きすぎるおまけもついて。
違う世界ではまだ、皆で仲良くやっている。そこには私の知る、トウカとその親友も元気にしており、二人を加えて、私が最後までやりたかったこと、“冒険”を続けている。
春風の吹くセシリスの窓に全員で首を突っ込み、道行く人、新たな景色に心を躍らせながら、希望に満ち溢れた大好きな地、ユーミリアスで強く、逞しく、そして幸せに生きている。
明日は何処に行こうか。どの依頼から受けようか。今晩は野宿にして、川魚でも焼いてみようか――
心躍る毎日を待ち遠しく生きていく自分が、まだ生きている。それが、自分の関与できない世界であったとしても、交わることが出来ないとしても――
私が彼らから貰った物は計り知れない。だからこそ、私が出来ることは全て、彼らに尽くしてあげたい。こんな混沌の溢れた世界に生きた私が、彼らに出会うなど、神の起こす奇跡より、奇跡だのだから。
だからこそ、私は口を開いた。
「その話は、四人には衝撃が大きいかもしれないわよ」
トウカへのタケの問いに、私が答えた。
彼らがここに来た以上、避けては通れぬ道だと、トウカが五人を連れてきた時、全てを理解した。
「……。」
肝心のトウカは、黙った。
私を見て瞬き一つせず、「軍団長が仰るのなら」と、私の意思を尊重してくれた。
「それでも、いいかしら」
そして、言ってしまった。また、判断を託してしまった。
「聞かせて下さい」と、彼らが言うのは分かりきっているのに、私はまたしても、心から信用する友に、答えを委ねてしまった。
(やっぱり、私はあんたらがいないと、本当にだめね)
久、タケ、ハチ、そして、私。
こんな世界に来てくれてありがとう。
私が何もないこの世界で生きた意味、ようやく見つけ出すことが出来た。