Chapter10-7
過去から来た三人は黙った。
この時代で存在していた自分たちの身に何が降りかかったのかは分からない。だが、それは同じく押し黙るジョゼットを見る限り、痛烈な出来事であったのだろう。
何かを思い出してしまったのか、何も語らない七歳年上の友人を見て、三人はそれ以上の模索を止め、このずれた次元での、自身の死を受け入れるしかなかった。
「なぁ、これも聞いちゃダメな事かもだけど――」
重苦しい空気が流れる中、赤髪の剣士が口を開く。
「あたしは、どうなったんだ?」
当然の疑問。
織葉自身、最悪の回答が返ってくるかもしれないと言うことは理解していた。
だが、ここでの自分を認めない限り、いつまでも心の片隅に残り続けるのは間違いない。
織葉はそう、疑問とともに自らの心構えを口に出して表明すると、ジョゼットでは無く、髪の伸びた魔導師を見つめた。
「死んだよ。織葉ちゃんも」
トウカは至極、あっさりと答えた。
「……やっぱり」
聞いた織葉も至極、あっさりとした反応を見せ、
「だから氷焔を持ってるんだろ?」
と、腰掛けるトウカの腰に今も据えられているのであろう、黒鞘の太刀に視線を向けた。
するとトウカはローブ下で腕を動かして服を捲ると、腰から見慣れたかつての刀、氷焔を引き抜き、眼前の机に静かに置いた。織葉もそれを見るのは久々だった。
黒鞘に納められた氷焔は多少の痛みはあるものの、実戦で扱うには何ら問題ないように見える。大きな欠けや割れも無く、誂えられた特徴的な桜花の鍔も、鋼の美しさを保っている。
「織葉ちゃんが死ぬときに、私に手渡してくれたわ」
「そんなことだと思ったよ。あたしなら絶対そうする」
少し俯くトウカに対し、織葉はその態度を崩さない。それは演技でも何でもなく、むしろ自分の取った行動にやれやれ、思った通りで情けない。と言わんばかりの態度。
「……驚かないの?」
椅子に深くもたれ掛って、鼻から息を抜く織葉を見て、トウカは意外な面持ちを作ってみせる。
「そりゃ死んだのはおどろきだよ。聞いて楽しい話でもないし。でもそれは今のあたしには関係ない。ちょっと沈んじゃってる三人には申し訳ないけど、それはもうどうにも出来ないことだし、何よりも“あたし”はまだ生きてる訳だから」
ふと、三人の顔が上がる。
実直で現実を見た織葉のその一言は、一文も的を外すことなく、現実を見据えていた。
「ま、あたしには難しい事が分からないだけだけどね」
三人の視線が降りかかっているとは露知らず、織葉は眼前の氷焔に手を伸ばすと、その刀身をほんの少しも引き抜くことなく、対面の魔導師に手渡した。
「……必要ないの?」
しっかりと両手で持たれた黒塗りの太刀を差し出され、トウカはほんの少し困惑する。それに対し、織葉はまた、しっかりと答えた。
「うん。大丈夫。氷焔は確かに強いけど、あたしには今、先に進むための刀がある。――これは“ゆい”が持ってて」
そして織葉は旧友に対し、少し笑って見せた。