Chapter10-4
もうそれは、三年も前の話。季節の数は十二も前になる。
織葉が連れたゆいと、まだパートナーチームだった頃の久たちが初めて出会い、強い絆を結ぶこととなった、“あの”事件の発端。
カルドタウンで大々的に開かれた、オーディションを謳う、大陸全土を巻き込んだ大きな波乱。
あの事件から、今年で三年。
現歴8019年のここでは、ちょうど十年になる――
「そうだ……! あれが、三年前……!」
ジョゼのそのひと押しの言葉で、各々に記憶が蘇る。
最初に見たプロモーションビデオも、会場も混雑っぷりも、ユーリスでの休息も――
各々がそれぞれを思い出し、その思い出の終着はエルマシリアの奥地で終わる。
あれは、全ての終わりではなかったのか。
あのスタートとゴールは、今ここ、繋がらない8019年に繋がっているというのか――。
「オー、ディション……?」
しかし、久たちより未来に生きる二人の反応は、期待していたものとは違った。
「そんなイベント、あったかしら」
「いや、どうだろう……。私も憶えていないけれど」
ジョゼットとトウカは、文字通り初耳の如く、過去から来た五人の話に首を傾げた。
「憶えて、いませんか?」
ジョゼが問う。それに対しジョゼットは額を擦り、十年前の出来事を必死に思い返していく。
「ほら、テレビで広告があってさ、カルドタウンで行うって奴だよ。凄い人数が集まったやつ!」
必死に身振り手振りを付けて説明するハチ。それを聞きながら頭を悩ますトウカが、何かを思い出したのか、小さく頷き始めた。
「あぁ……確かあった気がする……。当時学園で、何人かの子たちが喋っていたような……」
断片的だが、思い出される微かな記憶。当時まだ天凪魔法学園の生徒だったトウカの脳裏に、そんな催しがあると話していた学友の面影がうっすらと思い出された。
「でも久くん、これってさ」
悩む二人を見ながら、久に話しかける織葉。織葉に振り向いた久は真剣な面持ちをし、織葉の発言を待った。
どこか、織葉が何を言い出すのか分かっているかのように。
「忘れてるってことは、二人とも、オーディションに参加してないってことになるんじゃ……?」
久の予想は当たる。
十年という年月はかなり前だ。もう“昔”という表現を使ってもいいくらいの年数だろう。
だが、幾ら二桁に差し掛かる年数であっても、自らが参加した催しや出来事については少なからず憶えている筈だ。
あのオーディションは規模も大きく、記憶に濃く残る要素が多くある。参加していたならば、憶えている筈だ。ここまで必死に過去を辿らなくとも良い筈だ。
だが、二人は憶えておらず、トウカが思い出せたのも非常に薄く、曖昧だ。
これから導き出される答えは、一つしかない。
「この時代は、俺たちが、オーディションに、出なかった世界――」
久のその静かに、しっかりした発言は、この場にいる全員の耳に確かにしっかりと届き渡った。