Chapter10-3
「さてと、じゃあ、話を聞かせてもらえないかしら」
テンペストを受け渡したあと、ジョゼットはまた席に戻り、今度は久に向き合った。久はその視線に自らの目線をぶつけ、椅子に座りなおした。
「ええ。……その前に一つ。話し方ですけど、こっちからはこのような感じで行かせてください」
いくらジョゼとはいえ、七つも年上だ。どのような口調が適正か分からないので、久は目上の人に話す口調でいかせてもらうと、先に宣言した。
「構わないわよ。若い私もいるし、混乱するものね。こちらからはこんな感じで構わない?」
「はい。大丈夫です」
ジョゼットはいつも通りの口調。同じ時代のジョゼと変わらない。だが改めて聞くと、ジョゼよりも少し、声色が落ち着いているように思える。
「それじゃあジョゼットさん。まず僕たちですが、ここより七年前、8012年から転移してきています。ここは現歴8019年とトウカさんから聞きましたが、噛み合わない部分があるので、そこの確認からさせてください」
「分かったわ」
ジョゼットは頷いて見せた。それを見て、久が続ける。
「まず、自分たちの知る、ひとかげとの違いです。僕たちは8012年に、ひとかげと遭遇し戦っています。ですがその際のひとかげは、破損しても増殖することなどなく、一撃で葬れる存在でした」
「なるほど。だからあんな戦い方をしていたのね」
久の報告を聞き、渋い顔で頷くトウカ。ジョゼットは何の反応もなく、静かに久の発言を聞いている。
「ですがこの時代のひとかげは違う。トウカさんから聞きましたが、増殖するひとかげが生まれ始めたのは、今より十年前だそうですね」
「ええ。間違いないわ」
「十年、だって?」
今初めて聞かされる織葉とジョゼは、その驚きが口から言葉となって漏れた。
やはり、噛み合っていない。十年前から登場しているのなら、自分たちも遭遇している筈だ。と。
「十年前、突如ひとかげがユーミリアスに現れたわ。ひとかげは最初から破損すると分裂する存在だった。久の言う、一撃で葬れるひとかげなんて見たことがないわ」
未来から見ても、過去と噛み合わない。
「漠然とした質問ですみません。これは、どういうことだと思いますか?」
そう聞かざるを得ない状況。久は大きすぎる質問と分かっていながらも、眼前で悩むジョゼットに問うた。
沈黙。当然ジョゼットも悩んだ。
茶色いローブの下で腕を組み、顔を少し傾ける。久の問いに頭を悩ませたのはジョゼットだけでなく、その場にいる全員が頭を回転させた。
「飛躍した仮説だけど、久たちがいた次元と、今ここの次元が違う。としか考えつかないわね。片方の時代を基準にして考えても、矛盾が発生するわけだし」
「です、よね」
ジョゼットの見解にいち早く反応したのはタケ。タケは少なからず、その考えを視野に入れていた。
だがそれは、自分の師である先生の魔術を否定することになるのかもしれなかった。なのでタケは今回に限り、自らの答えを先に発言することを控えていた。
「ジョゼットさん。その十年前、影が初めて現れた際、何かこの大陸に異変や出来事はありませんでしたか?」
次に問うのはタケ。
タケはこの次元の十年前、影の出現に何かなかったのかと、そこから糸口を探ろうとする。
「そう、ね……。十年前……何かあったかしら?」
横に座るトウカと顔を合わせるジョゼット。訊かれたトウカも首を傾げ、十年前の遠い記憶を探し出そうとする。
「ここで十年ってことは、俺たちで言うと三年前だよな。被ってるか知らんけど、何かあったっけか?」
そう言うハチ。十年も前の事はよく思い出せないが、自分たちの時代と重ね合わせると三年前。それくらいであれば思い出せるのではないかと、ハチは三年前に焦点を絞る。
(十年は三年前。三年前と、影――)
「そうだ、そうだよ……!」
ぱんと強く手を打ち、目を丸める織葉。その動作にその場の全員が目を奪われた。
「どうして気がつかなかったんだろう!」
「――三年前と影って、あのオーディションしかないよ!」