表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クランクイン! Ⅱ  作者: 雉
再会、再開
5/72

Chapter1-4

 


 ゆいの愛杖、リューリカ・シオンは、ゆいがこの世を去った時から、桃姫が預かっていた。

 ゆいの杖は桃姫の手に渡り、もう二年が経つ。だが、主人のいないシオンは今でも綺麗に光り輝き、主の帰りを今か今かと待っているように見えた。


「それで桃姫先生、ゆいを迎えに行く、というのは?」


 久しぶりのゆいの杖に目を奪われていた五人だったが、タケのその一言ではっと顔を上げ、一様に桃姫を凝視した。


「でも、でも先生、ゆいは――」


 桃姫からの説明が待てず、織葉が口を挟んだ。


 この中で唯一、織葉はゆいの死に目に会っている。思い出すまいとしていたが、腹部に黒い槍を何本も受け、そのまま光となって消えていったゆいの姿は、今でも鮮明に思い出すことが出来てしまう。


「みんな、落ち着いて聞いて欲しい。実は、ゆいはまだ、生きている可能性があるの」

「「えええっ!?」」


 思わぬ桃姫からのカミングアウトに、五人は思わず立ち上がった。反動で机が揺れ、カップの中の飲み物が危うくこぼれかけた。


「先生、それは一体どういうことだよ!?」


 ハチが更に身を乗り出して訊いた。

 それに対し、桃姫は一つ頷くと、机の置いたままのシオンを指差し、口を開いた。


「私たち魔法使いと魔法具の関係が、皆の様な、剣士と刀のような関係と少し違うのは知っているかしら?」


 すると五人はそれぞれに顔を見合わせた。

 ここには魔法使い職が一人もおらず、桃姫の問いに誰も答えることが出来ない。


「こういう言い方をすると怒られるけれど、戦士と剣、弦使いと弓なんかは、持ち主とその道具っていう関係性があるわよね。誰かが作ったものを買ったり、替えたりも出来る」

「まぁ、確かに」


 ジョゼは桃姫の言葉を聞きながら、手に嵌めてある籠手を見て触った。確かにこれも、何処かの職人が拵えたもので、馴染みの武具屋で購入したものだ。

 ジョゼの愛篭手テンペストは未だ現役で、ゆいが消えてからも、その姿を変えていない。


「でも、魔法使いと杖はちょっと違うの。魔法使いは自分の杖を自らの手で作らないといけない。だから、使い手と道具を越えた関係にあるの」

「ええと、だからつまり……?」


 やはりハチは理解に苦しみ、説明途中にもあるにかかわらず、桃姫に結論を急いた。


「魔法使いと魔法具はね、魔芯で繋がっているのよ。だから、杖の使い手が消えた時には――」

「杖も同じく力を失う。と言うわけですね、桃姫先生」

「そういうこと。流石タケくん、察しがいいね」


 桃姫はにっこりと笑うと、少し離れた所にいるタケに笑って見せた。


 魔法使いと杖は、単なる使い手と道具の関係を越える。自ら作り出した杖を最愛のパートナーとし、お互いの魔力を繋ぎあう。よっぽどの事がない限り、魔法使いの杖は生涯の内、一本きり。

 杖と術者の魔芯は互いを高めあい、助け、成長していく。それはつまり、術者の魔芯が死に消えた時が、杖の最期ということになる。


「じゃ、じゃあ! ゆいはまだ生きているんですか!?」


 今度は織葉が更に身を乗り出した。相変わらずな雑な手入れの赤髪が、体躯に合わせて揺れ動く。


「その可能性が高いわ。ゆいの杖、シオンを預かって二年だけど、未だにクリスタルが輝いてる。杖は術者の死の直後に死ぬ訳ではないけれど、流石に二年は破格よ。主を失った杖単体にそこまでの力はないし、これはもう、ゆいがまだどこかで生きていると、そう考えた方が筋が通るの」


 ぱあっと、五人の顔が明るくなった。


 ゆいがまだ生きているかもしれない。それはまだ確定ではないが、五人の気持ちを高ぶらせるのにこの上なかった。

 織葉とジョゼは手を取り合って喜びあい、久とタケ、ハチの三人は瞬時に目を合わせて頷き合った。


「桃姫先生、それで、ゆいはどこにいるんですか?」


 二人から視線を外し、タケが訊いた。


「そう、ここからが大切なところ」


 喜び合う五人の中に、静かに声が通った。

 ピタリと空気を静まり返させると、五人は落ち着き、椅子にもう一度座った。


「ゆいのいる場所、それはね――」


 校長から告げられた場所は、想像もしていないところだった。



 理解が出来ない。

 そこは場所ではなかった。




 そこは、時間。

 桃姫が答えた、ゆいの居場所。

 それは、「未来」だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ