Chapter5-5
「くっそぉ!」
ギィン!
織葉に飛びかかった、両手剣持ちの影。
織葉は一撃で葬れる筈の影の腕や胴体を狙わず、その自分へと振りおろされた両手剣に愛刀をぶつけた。
鋼鉄が共鳴する鈍い音が響き、二振の剣は動きを止める。
「ええい、面倒だな!」
弩を背負い直したタケとハチは、副兵装とも言えるナイフを各々取り出すと、迫りくる様々な武器と攻撃をそれで凌いだ。
遠距離攻撃は一撃の火力が高く、それを自在に抑えられるようには出来ていない。
今の状態でいつもの武器で戦うと、敵の破損を招きかねないのだ。
「せいっ、よっと!」
ジョゼも手裏剣をポーチに仕舞いこむと、持ち前の俊敏さと体術で、近づく影を薙ぎ払い、受け流し、果てには持ち上げて投げ飛ばしていく。
ジョゼの脇腹を狙ったナイフを素早く正確な身のこなしで回避すると、両腕で影の腕と肩を掴み、そのままの勢いを殺さずに背面に投げ飛ばした。
(戦えてはいるが、根本的な解決にはならない。なんとかここから離脱せねば……!)
レジエラを捌きながら、近づく影をそれ以上寄せまいと威嚇する久。
その久も刀身を影に当てることは絶対にせず、ぎりぎりを狙った槍捌きを繰り出して影を五人から遠ざけていく。
一度に全ての影を攻撃して時間を作り逃げ出したとしても、それを追いかけてくるのはこの倍の人数だ。一斉攻撃をしてその間に逃げるのは得策ではない。
なんとかして、今のこの出現人数のまま学園を退去し、一度態勢を立て直せねばならない。
(だが、それをどうやって……)
影の発生で、いつしか校庭中央に押し戻されてた五人。
槍をぶんぶんと捌き、作り上げた風圧で数体の影を吹き飛ばした久が、向かおうとしていた校庭から繋がるスロープを睨んだ。
「!?」
校庭から緩やかに伸びる、非常口の様な細い細い道路。
その緩やかな道の上に経つ、茶色い人影のような姿――。
久の両目は確かに、そこに立っている人物を捉えた。
砂塵から身を守り、そして同時にそれと同化するための物とも思える、薄茶色のローブ。
(手に持ってるのは、杖……か?)
長い裾から覗く、杖先のような何か。
手首をすっぽりと覆うローブの裾から飛び出たそれは、不思議にも、この遠目からでもしっかりと見て取れた。
そしてその人物が、ゆっくりと、“杖”を持った腕を、地面と水平にした刹那――
バゴォン!
鼓膜に轟く轟音と、網膜を焼き切るかのような閃光が、五人に襲いかかった。視界が真っ白に染まり、爆音で脳が揺れた。
突如五人を襲う爆発。
その爆発は空気が一瞬にして膨張したかのようなもので、五人の肌を熱波が襲う。
爆発で渇いた空間から五人は四散し、それぞれが地面にばらばらと倒れこんだ。
「あっつつ……」
「ジョゼさん! 大丈夫!?」
地面にうずくまって片頬をおさえるジョゼに、少し服を焦がした織葉がすぐさま駆け寄った。
「足をちょっとやられたかも……織葉ちゃん、腕を」
「う、うん!」
あの爆発の中心とジョゼは最も近かったのか、その衝撃をもろに受け、着地時に足首を痛めさせた。
ジョゼはきりきりと痛む足首に耐えながら、納刀した織葉の腕に掴まり立った。その次の瞬間――
ガガァン!
またしても大きく地面が揺れた。
見ると今度の爆発は五人の後ろで起きており、首をひねってそこを見ると、幾つか新たに現れていた影がそれによって吹き飛ばされている。
「くっそ! 一体なんだよ!」
やや少し離れた場所に吹き飛ばされていたハチはすぐさま体勢を整えると、ジョゼのもう片腕を取った。
そこに起き上がった久とタケも加わる。
「ハチ、ごめん……」
いつになく弱々しいジョゼが、肩を貸したハチに弱く謝る。
「そんなことは構わんが……おい久! どうすんだこれ!」
ジョゼを抱えるのに二人。従って今の戦力は実質二人。
敵は増殖する影と、正体不明の空気爆発。
影はなんとか抑えらるとして、問題はあの爆発だが――
(おそらくあの茶色い人影が行使した爆破魔法だ。だがそれをみんなに説明している時間は無い。一刻も早くここから立ち去らねば――)
「ひさっ! 伏せろォ!」
途端、タケが久の脇腹に飛び込み、背中を地面にこすり付けた。
世界が緩やかになったかのような超人的な世界の中、脇腹に感じるタケのタックルによる鈍痛と、背中を引っ掻くような砂利の痛み。
そして視界の入る天頂の晴天が、突如として煙に覆われた。