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クランクイン! Ⅱ  作者: 雉
人生で最短の五日間
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Chapter3-1

人生で最短の五日間



「ついさっき、天凪先生から連絡があったよ」


 それぞれが仕事から帰還して数十分。一段落ついたところを見計らい、久がそう口にした。


 全員の動きがぴたりと止まる。

 椅子を揺らしていたハチも、背を伸ばしていたジョゼも、眼鏡を拭いていたタケも。


「ゆいの件について、だよな?」


 腰から鞘ごと外そうとしていた織葉の手が止まり、代わりに口が動いた。


「あぁ」


 久は肯定すると、先ほどかかってきた電話の要件を、四人に伝えた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



『もしもし。天凪魔法学園の天凪桃姫ですが』


 まさにひと月が過ぎようとし、カレンダーを捲ろうとしていた今日の夕方、支部の電話が鳴った。


 西に落ちゆく夕日が室内に眩しく差し込む時間。 

 その刻に掛かってきた電話の主は、今月の頭に依頼をお願いした、天凪桃姫本人だった。


「先生。ご無沙汰してます」


 電話を取ったのは久だった。電話の内容は予想できたが、久は何も聞かず、挨拶を返して桃姫からの応答を待った。


『お忙しいところ、ごめんなさいね。例の件なのだけれど、準備は整ったわ。もういつでも発てるわよ』

「分かりました。連絡ありがとうございます」


 桃姫はこの依頼の件、ひいてはゆいの存在なども極秘としていた。それはセシリスの五人も同じであり、桃姫からの一件は誰にも口外していない。


『経つ日付、時間はそちらにお任せするわ。仕事やみんなの予定もあるでしょうし、話し合って都合を付けて頂戴』


 今回向かうのは場所ではないので、急いで向かおうがゆっくり向かおうが、行きつく場所、そして時間は変わらない。桃姫は最終的な出発日を五人に委ねた。


「了解です。今ちょっと僕以外出ているので、全員が戻り次第話をして、なるべく早く返事させていただきます」


 受話器を持ったまま壁掛け時計を見ると、時計の針は真上と真下を指そうとしていた。依頼に出ている他の四人も、もうそろそろ戻ってくる筈だ。


『ありがとう。本当に色々と無理を頼んでごめんなさいね。それじゃあ連絡お待ちしてるわ』


 桃姫は電話口で謝罪すると、そのまま受話器を置いた。かちゃんと音が一つなり、お互いの通話が途切れた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「いよいよ準備完了って訳なのね」


 飲料を口にしていたジョゼがコップを机に置いた。

 結局ジョゼの新しい篭手は未だ見つかっておらず、同じテンペストを嵌めている。


「ああ。出発の日時なんだが、こっちで決めて大丈夫だそうだ。各自大きな任務を抱えてない日にちを選びたいんだが、どうだ?」


 すると全員は各自の事務机に戻り、それぞれの日程表を持ち出し、机に置いて並べた。


 ギルドとしての大きな任務や仕事は久が管理しているが、今まで通りのパートナーチーム依頼は、任務内容や各員の得手不得手に合わせ、個人個人で処理することが多くなっていた。


「うーむ。最短で二日後って感じか」

「そうっぽいね」


 机に並んだ、五枚の今月のカレンダー。それを見比べながら、タケと織葉が漏らした。


「でも残り二日で準備を整えられるかしら。次の空き日――週明けのこの日はどうかしら?」


 今の時刻は午後七時。二日後出発となると、ほぼ明日一日で準備を整えなければならない。


 行先が全く不明な時代であることに不安を覚えていたジョゼはそれを考慮し、来週の頭はどうかとカレンダーを指さした。


「この日ならまだ五日もあるし、未来から戻った当日と翌日にも大きな予定は皆入ってないわ。十分に余裕があるんじゃないかしら」

「俺もこの日いいと思うぜ。その次となると数週間後になりそうだし。あんまり先生を待たせるのも悪いしな」


 ジョゼの提案にハチが乗った。


「よし、なら出発は来週の月曜にしよう。明日の朝にでも天凪先生に連絡しておくよ」


 マスターの締めに全員がうんと頷くと、各々カレンダーを机に戻し、帰宅の準備に入った。

 タケは支部の窓にカーテンを掛け、久は受付所の雨戸を閉めに動いた。


「それじゃあタケ、先に上がるぜ」


 深緑色の斜め掛け鞄を肩から下げたハチが、戸締りをするタケに声を掛けた。


「あぁ。こっちもこれで終わりだ。三人ともお疲れ様」


 最後の一枚の窓を施錠し振り向くと、そこには鞄を持った盗賊二人と、織葉が裏口の前で立っていた。


「あーいよ。そんじゃ、また明日」

「お疲れ様。おやすみなさいー」

「タケさんおつかれー」


 三人はそれぞれ片手を上げて別れの挨拶をすると、支部を後にした。

 裏口ががちゃんと閉まり、事務室に静寂が訪れる。


「全員帰ったか?」


 その時、受付の施錠から久が戻った。

 久はそのまま事務室と受付を繋ぐ、暖簾が掛かった扉も施錠すると、手にしていた書類を自身の事務机の上に置いた。


「あぁ」


 家の距離的な問題もあるが、支部はこの二人が最後まで残っている事が多い。


「タケ、久しぶりに神社行かないか?」

「お、ラーメンか」


 仕事を終えた久が、タケを夕食に誘った。

 二人して仕事を終わるのは珍しいことではないが、夕食に誘ったのは久しぶりだった。


「ちょうど今晩の献立を悩んでたとこだ。久々に行ってみるか」

「そうこないとな! 行こうぜ」


 タケは夕食の献立を悩んでいたらしく、久の提案に二つ返事で了承。

 セシリスの幼馴染二人は支部から出ると、夜のセシリスを抜け、行きつけの茸神社へと去って行った。


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