Chapter0
プロローグ
この地に立つのは本当に久しぶりだ。
西風が優しく吹き、穏やかな時間、麗らかな日差しが常に訪問者を歓迎してくれる。
「十年ぶり、くらいかしら」
小高い丘に位置する静かな村。ここは本当に変わらない。私、天凪桃姫が前にここに来たのは、もうそれほど前だ。
自分の本拠地からそう遠くもないのに、中々足を運ぶ機会がない。だが、それでも変わらないこの場所に、強い安心感を覚える。
村に入り足を進める。すると、すぐに今回の目的地が目に入った。
古い、木造の家。平屋作りのその家は、築何十年と経っているにも関わらず、手入れが行き届いており、丁寧な補修個所がいくつも見受けられる。
「ヤイチ……。久しぶりね」
今は亡き、懐かしい友の名を呼ぶ。ここにかつて、親友が住んでいた。
白き弓を担う、金髪の男性。彼こそ、この大陸きっての弓の名手。博識で穏やかで、それでいて強い。何度も彼に窮地を救われた。
彼が亡くなって、もうしばらくになる。幾度となく頼った彼に対し、私はあまり、恩を返せていない。「桃姫は頼りになる」とよく言ってくれたが、行動で返せない自分を嫌になったのをよく覚えている。
なのに――なのに私は今日、その彼の孫と、その仲間の力を借りようとしている。
(ヤイチ、弱い私を許してね)
きっと彼は許してくれる。力を貸してくれる。だけど私は、謝らずにはいられなかった。
彼の旧家は今や、人々に頼られる場所になっている。
私はその建屋の窓口に立ち、呼び鈴を何度か鳴らした。