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第二部 第四章 第一話 体内


「真っ暗じゃな……」

「真っ暗ですね……」

「何も見えんのぅ」

「ニャンコの目でも見えませんか?」

「僅かな光もないからのぅ……仕方ない。お主、ちょっと光れ」

「そんなランタンじゃないんですから……まあ良いですけど」


 暗闇の中に仄かな光が灯る。敢えて光魔法は使わず覇王纏装を使用するのは修業の一貫である。故に光は人型……実に怪しい光景だが、他に人もいないので別段驚かれることもない。


 ここは【海王】の体内───。


 ライとメトラペトラは、魔の海域にて運搬船ごと海王に飲み込まれた。今はその運搬船の瓦礫の上で現状確認中である。


「うむ!お主には『暗闇でボンヤリ光る勇者君』の称号を与えよう!」

「……。そんな珍妙な称号は要らないですよ。それより周囲を確認しましょう」

「そうじゃな……といってもやはり覇王纏衣の光だと、ちと見辛いのぅ……」


 そう呟いたメトラペトラは、目の前に光の玉を創り出し上空に放り投げた。天井付近に到達した光は輝きを増し、まるで真昼の明るさが空間を満たす。


「良し……これで見やすかろう。ん……?どうしたんじゃ?」


 視界が晴れたメトラペトラは隣でガックリと項垂れるライに気付いた。


「俺……光った意味無いじゃん……」

「ん?『勇者ピカリン』の称号が手に入ったじゃろ?」

「要らんわ!ってか称号変わってるじゃないですか!」

「ん?『暗闇勇者ピッカリン!』のが良かったかぇ?」

「くっ……寧ろ酷くなってる気が……」

「ハッハッハ。良かったのぅ」


 ライはとうとう膝を着いた。会話が成り立たない相手には言い合いで勝てる訳もない。


「冗談はともかく、ここが海王の体内なのは間違いなかろうな。にしても広いのぉ……」


 メトラペトラの光で照らされた海王の体内は、かなり現実離れした光景だった……。

 天井付近まで登った光は、最早球体と確認出来ないほど遠くで輝いている。天井……恐らく食道の肉壁はシウトの王城が入る程に高く、空間は照らす光だけでは届かない程の奥行きがあり暗闇が続いている。


 魔の海域にてライ達を待ち構えていた船団は数千人を収用出来る巨大な軍用魔導戦艦だった。だが、それを尾ビレで容易く跳ね上げたことを考えれば如何な巨大な存在か理解出来よう。


「洞穴……には見えんわな」

「ええ……壁が肉の質感全開のピンク色ですからね。血管も見えるし、時折動くし……」

「どうやら下に水は無いようじゃな。歩いて行ける様じゃが、どっちに向かえば良いのやら……」


 前後どちらも暗闇に続く洞。そもそも、どちらに行ったとしても出られない可能性もある。


 そんな中、ライはあっさりと方向を指し示した。


「多分、こっちじゃないですかね?」

「……根拠は何じゃ?」

「あれ?メトラ師匠には聞こえてないんですか?」

「?……何か聞こえるのかぇ?」

「はい。結構ハッキリと……」


 思い返せばあの時、メトラペトラはライの制止を受けて共に飲み込まれたのだ。そうでなければ転移魔法で移動するか、能力開放で海王を滅ぼすつもりだった。


「声が聞こえるんですよ。もっとも呼ばれているのは俺じゃないですけど」

「声……人の言葉かぇ?」

「はい。頭に直接……子供の声で助けを求めてます」


 要領を得ない話だが、メトラペトラには聴こえない声がライには聴こえているらしい。怪しいことこの上無いとはいえ、どの道他に手掛かりも無いのだ。ならばそれを目標とするのも一興と判断したメトラペトラは、ライに話の続きを促す。


「で、声は何と言っとるんじゃ?」

「え~っとですね……【助けて、バベル】と繰り返していますよ」

「バベルじゃと!」


 意外な場所で予想外の名前が飛び出したことに驚くメトラペトラ。かつての伝説の勇者……その名が何故?と考え込んでいるようだ。


「多分、俺は子孫だから聞こえているんでしょうね。メトラ師匠からご先祖の名前聞いてなかったら俺も大混乱でしたよ」

「ふぅむ……海王とバベルが知己とは知らなんだな。それにしても“助けて”というのは何じゃ?」

「さぁ……とにかく行けば判るかと」


 こんな場所では罠もへったくれも無いだろう、とライは笑った。メトラペトラもそうは考えているが、声の主が『海王』か『それ以外』かでは危険度も変わる。もし助けを求めているのが海王ならば、厄介な敵がいる可能性も残るのだ。

 しかし、ここに留まっていても仕方ないことも事実。いざとなれば内側がら穴を開ければ良いのだとメトラペトラは物騒なことを考えている。


 そして早速、移動を始めた二人……メトラペトラはいつもの定位置であるライの頭上に乗っている。上空の光球は、常にメトラペトラの真上を照すように移動しているので視界は確保されていた。


「お主が飲み込まれたのは声が聞こえたからじゃな?」

「はい。なんか消え入りそうな感じだったんで……。それに、海王も殺意を向けてなかったですから」

「しかし……お主も厄介事が好きな奴じゃな。自分から食われるとは……」

「失礼な!世界が平和なら、日がな一日ゴロゴロして食っちゃ寝したい俺をナメないで頂きたい!」

「……ソレ、威張ることかのぅ?」


 弟子の痴れ者ぶりに引き気味の大聖霊。しかし、そんな日がライに訪れるかはかなり疑わしい。何せ見て見ぬフリの出来ない不器用さだ。これは死ぬまで治らない性分なのだろう。


 ならば長生き出来るようにするのが師匠の勤め……。


「どうせなら修行しながら行くかのぅ。お主、最小限の魔纏装を使ってみよ。属性も要らんぞよ?」

「わかりました」


 早速、極薄の纏装を纏うライ。魔力上昇したライには魔纏装のほうが無駄が少ないのでそう指示したのだが、実際は何でも良いとメトラペトラは補足する。


「よし。じゃあそれを更に、糸をイメージして周囲に伸ばして行くのじゃ。蜘蛛の巣の様に……じゃが全方位に向けてな」

「了解っす」


 言われたように纏装の糸が広がって行く。出来上がったのは目に見えぬ繭のような広域の纏装。接触しても物理的影響を外界に与えないが、ライには感覚として伝わってくるのが判別出来る。


 指示を受け難なく熟しているが、二年以上の日々を寝る間も惜しみひたすら纏装の修行に明け暮れたライだからこその繊細な操作である。


「うぉう……な、何か感触が気持ち悪い……」

「その辺は慣れるしかないのぅ。ともかく、全身に感覚が伝わるじゃろ?それが《探知纏装》じゃ。隠遁が得意な敵の索敵や暗闇での戦闘にも使える技じゃよ。集中して一ヶ所に向ければ遠距離の状況把握にも使える。覚えて損は無い筈じゃ」

「確かに便利ですね……ムフフ。これなら女湯の把握も可能……ゲブァラッ!」


 頭上から降りたメトラペトラの回転ネコパンチ炸裂!ライは錐揉みしなが吹っ飛んだ。しかし、当然怪我はない。


「い、嫌だなぁ……冗談ですよ?冗談……」

「フン!せっかくの上位技巧をそんなことに使うなんぞ技が泣くわ。ホレ……行くぞ」

「へーい……ん?メトラ師匠、ストップ!感知に何か触ってます。魔物?こんな場所で?」

「何じゃと?」


 急いでライの頭に乗り指差す方向に視線を向けるメトラペトラ。そこには魚に四本足の生えた様な魔物の姿が……。


「確かに魔物じゃな……まあ、この巨体ならば飲み込まれている魔物が生きていても不思議ではあるまいが……」

「襲ってきますかね?」

「さてのぅ……じゃが、知恵あるものの動きではないぞよ。寧ろ操られているような……」


 そこで突然、ライ達に気付いた魔物は突進を始めた。ライは反射的に『高速言語』を使い中位雷撃魔法 《雷蛇》を放つ。高威力の魔法では海王を傷付ける恐れもあり、追尾効果を持つ《雷蛇》なら確実に魔物に当たると判断し選択したのだ。そして狙い通り、魔物のみを感電させ焦がすことに成功した。


「ビ、ビビった~……なんスか、このヌメヌメと気色悪い魔物は……」

「う~む……ワシも初めて見るのう。この手足……魚のヒレかと思うたが、どうも違う様じゃな」

「何か植物の根みたいですけど、魚と植物の合成魔物ですかね?」

「いや……ライよ。何か嫌な予感がするぞよ?」

「脅かさないで下さいよ……まさか大量に出てくるとか言わないですよね?」

「そういうつもりで言った訳じゃないのじゃが……お主、フラグって知っておるかぇ?」


 ライの言葉は現実化し、洞の暗闇からチキチキと音が聞こえてきた。始めは少なかった音が徐々に数を増やし、やがて鳥の大群が鳴くような不快な音になってゆく。


「ホレ見ぃ!しょうもない御約束しおってからに!」

「お、俺のせいですか?絶対違うでしょ?」

「良いから来るぞよ。これも修行じゃ!お主だけで倒して見せぃ!」

「んな無茶苦茶な……」


 文句を言いながらも【魔纏装】を展開し、腰から抜いた短刀を構える。先程学んだばかりの探知纏装を展開。敵の数を確認すると、ライは悲鳴に似た愚痴を溢した。


「師匠!メトラ師匠!キモい。超気持ち悪い!」

「師匠に気持ち悪いとは何事じゃ!この痴れ者めが!」

「ち、違いますよ!魔物がです。数百は居ますよ!!」

「成る程、それは気持ち悪い!しかし、折角船で修行したんじゃから存分に見せてやれぃ!」

「メトラ師匠……まさか、相手するのが嫌だから丸投げ!じゃ無いですよね?」

「だって……女の子じゃもん?」

「……くっ。このおニャンコめ!」


 毎度ながらの軽口を叩きつつ、ライは風属性魔法剣 《風刃波》を放つ。横凪ぎ一閃の風の刃が見えない暗闇に消えて行くと、“ドドド”という何かが崩れる音が聞こえた。しかし、迫り来る音は勢いを落とさずに大きくなる一方だ。


 やがて灯りの範疇に入った魔物の群れは、視界を埋め尽くさんばかりだった……。中には身体が分断されかかっている個体も有ったが、根の様なものがそれを繋ぎ止め再生している様子が確認出来る。


「どうやら斬撃は効果が薄い様じゃな。ならば焼くか凍らせるか……まあ灰にするのが基本かの」

「了解、ボス!」

「早うせい!気持ち悪い、凄いヌメヌメしていて食べる気もせんわ!!」

「……食べる気だったんですか?」


 苦笑いしながら雷属性魔纏装の圧縮を何度も繰り返す。そうして掌に集められた魔力は、低く振動する嫌な音を立て煌々と輝いていた。ライはそのまま手を前に翳し『高速言語』を一言呟く。


 《雷迅餓獣》


 修行で手に入れたオリジナル【対魔】最上位圧縮雷魔法である。


 ライの掌から放たれた六つの光玉は、メトラペトラの創った上空の光に似ているが完全な非なるもの。プラズマ化している高エネルギーの塊は意思あるものかの様に次々に魔物に襲い掛かり瞬時に炭化させてゆく。

 その勢いは止まることなく、動くもの全てを喰らい尽くす獣の如き動きを繰り返した。光球の魔力が霧散するまで蹂躙は続く……。


「うむ!……。力の使い方を教えたワシが言うのも何じゃが、戦慄を覚える光景じゃの」

「……まあ大規模の上位魔物対策、しかも乱戦で味方に当てない様に考えた魔法ですから」


 光球を受けた魔物は虫食いの様に歪な形の残骸になっている。しかし、まだ全てを倒した訳ではない。ライは再び魔力圧縮を始める。


 圧縮を始めたのは氷属性の魔力。掌から放たれた氷塊が魔物達の中心付近に到達した時、ライは開いていた手を握り絞めた。同時に氷塊は粉々に砕け霧のように広範囲に散ると、華の様な紋章を拡散した氷に投影し魔物を捕らえる。


 《氷華柩》


 対魔用オリジナル氷結魔法。その紋様が浮かんだ範囲は一瞬で凍りつき、巨大な氷の華が咲く。魔物は氷の柩に閉じ込められ絶命……そして氷の華が砕けると、魔物も粉々に崩れ散った。


「どうやら殲滅出来た様じゃな」


 メトラペトラは目を凝らし魔物を確認するが、動く者は存在しない。


「はぁ~……何であんな大量に魔物が。しかも統率した様に突っ込んで来ましたよ?」

「うむ……」


 そこでメトラペトラは黙り込む。何かが気に掛かるらしく、ライの頭上で無言のまま尻尾を動かしている。


「メトラ師匠、どうしました?」

「確かにお主の言う様に【統率が取れていた】のが気になっての……通常は統率されていても、攻撃を受ければ多少なりの混乱が起きる。それは生存本能から来るものじゃ。じゃが……」

「あの魔物は全然反応無かったですね。死を恐れていない、みたいな?」

「うむ。やはりあれは【操られていた】というより【乗っ取られていた】のではないかのぅ?まだ確証は無いがの?」


 メトラペトラのこの疑念は正しかったと後に判明することになる。しかしそれは、二人にとっては災難そのもの……。


 未だ気付かぬ脅威──。


 勇者と黒ネコは軽口を続けながらも警戒しつつ暗闇に歩を進めるのであった。





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