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第四部 第二章 第一話 不知火領


 不知火領本土の港の街、【渦原】。


 不知火領の海洋軍港拠点であり、隣接する商業港と融合を果たした不知火最大の港だ。


 その船着場…。ちょっとした騒動が起こっていた。



【見たこともない異国の船が来た】



 最大限に警戒する街の人々。だが、その船から領主ライドウが登場したことにより、大衆の意識は警戒から興味に変化を果たすことになる。


 鉄甲船はそれほどに珍しいものらしい…。



「凄い人の数ですね」

「まあ軍港は商売には打ってつけだからな。常に人がいて昼夜関係無く商売が出来る。それは兵側からしても有り難いのだがな」


 この街は軍の公共施設と居住区以外の土地を全て商売に開放している。他の領地などの交易に使ったり、兵相手の飲食関係、更に兵の装備等も商人に委託しているので、商人達にしてみればこれ以上無い儲けの拠点になっていた。

 但し、不正や独占を目論んだ場合は追放や処罰対象になる。その為、一つの商会が得られる場所は二ヶ所までとされていた。


「誰も俺に反応しませんでしたね」

「まあ他国の船もたまに来るからな。街を良く見れば異人も居る筈だぞ?」

「うぇ?さ、鎖国しているじゃないんですか?」

「ハッハッハ。まあそう思うのも無理はない。鎖国と言っても完全に交流がない訳ではないのだ。そうでなければ情報が入らんだろ?」

「いや…言われてみればごもっともです。で、交流があるのは何処の国ですか?」

「スランディという島国だ。知っておるか?」


 ライは手の平をポンと叩いた。一応聞いたことがある国の名前だったのだ。


「俺の友人が商人でして…。その商売の品にスランディ産の品が有りましたね。植物の皮を使った家具とか、鮮やかな鳥の羽を使った扇とか…。ああ!砂糖が有りましたね」

「そうだな。久遠国は他に果物なども仕入れている。唯一交流がある国だが、スランディ島国は割と開かれていてな。スランディ島国を経由して入る品物は少なくない」


 魔導技術は持たないが、交流により治安を維持する体制を揃えたというスランディ。唱鯨海という比較的穏やかな海域の島国は、侵略しそうな国家から離れているからこその発展を遂げたのかもしれない。


「さて…済まぬが観光はまたの機会としてくれ。代わりに不知火の中心街『紀里谷』に着けば城下を見られるよう計らう。大聖霊様の酒もご用意します故…」

「うむ…それならば良い」

「師匠…ヨダレ…」


 生唾を飲み込むメトラペトラ。既に頭の中は酒で一杯だ。


「リルは大丈夫か?少し海から離れちゃうんだけど…」

「だいじょうぶ!」


 スズに抱かれているリルは自信ありげに笑っていた。メトラペトラの話では、鯱である海王側が無事ならば問題ないとのことだった。


「では行くか」


 まず向かったのは不知火軍の拠点。海兵長は領主の帰還に畏まっていたが、鉄甲船や連行した海賊の件を伝えられるとキビキビと動き始めた。そして間も無く護衛付きの馬車が用意された。


 護衛兵はディルナーチ特有の革張り鎧である。更に装備した武器も独特の反った細身の刃を帯びている。


 一方の馬車も、小さな庵が乗った様な、不思議な形状だ…。


「随分と言うか、その…ハハハ…」

「ハッハッハ。中は百漣島の庵の様な造りになっておる。一応、国外の馬車を元にしたものだからな。乗り心地は悪くないと思うぞ?」

「はぁ…」

「何なら馬にするか?」

「う~ん…出来れば馬でお願いします。この国の景色も見たいので」

「わかった」


 直ぐさま馬を用意して貰い、改めての出発となった。




 久遠国の大地は実に自然に恵まれていた──。森の面積はシウト国よりかなり多い印象を受ける。

 それに至る所に水源が有り、道を行く間は常に川が確認できる程だった。


「ライドウさん。久遠国は魔物居ないんですか?」

「いや、普通に存在する。だが、こちらが手を出さなければ、滅多に襲われることはないな」

「へぇ~。自然が豊かだと食料に困らないから、大人しいんですかね?」

「うぅむ…。他国の魔物を知らぬから何とも言えぬが、ペトランズ大陸はそんなに魔物が危険なのか?」

「そりゃあもう…何年か前に魔王が台頭してから数が増えてて被害も多いんですよ…」


 そこで馬を止めたライドウ。それに合わせて隊列は一斉に足を止めた。


「魔王の台頭?それは…初耳だ…。本当なのか、それは?」

「えぇ…。大体、勇者なんて魔王がいなければ大半が只の肉体労働者ですし」


 しょっぱい話をしているライだが、事実として有事以外に勇者の価値は低い…。あまりに強いと寧ろ驚異認定されるので、不用意な行動も取れなくなる。

 そういった実力者はどこかの王族や有力貴族と婚姻すれば重宝されるが、皆が皆そうは行かない。その場合、ペトランズ大陸では神聖国が受け皿になっていた。


「ディルナーチ大陸では魔物に変化が無い、という訳ですか…?魔王の誕生って大陸隔てると関係ないんですかね?」

「さてな…しかし、魔王の台頭は我が国にも危機だぞ?しかし何故、情報が入らなかったのか…?」

「情報ですか?鎖国しているからじゃないんじゃ…」


 そこでライドウは馬を動かす。隊列もそれに倣い移動を始めた。


「………ここだけの話にして貰えるか?」

「はい。構いませんけど…」

「実はペトランズ大陸には密偵がいるのだ。情報無くして安全は有り得んからな。だからペトランズ側の情報は入ってはいるのだよ。最低限ではあるが」

「知らなかった…。でも顔や言葉でバレそうですけど…」

「密偵はスランディ島国の血が混じった者が多い。見分けは付かんだろう。それに変装や幻覚魔法の使い手もいる。言葉などは皆、流暢だぞ?」


 それくらいでなければ密偵は務まらぬだろうと語るライドウ。確かにペトランズ大陸にもディルナーチ出身の者が居ないでもないが 、そんなあからさまな密偵に意味はないだろう。


「密偵の情報って何処に集まるんですか?」

「密偵は王家直属だ。現在は嫡男であるクロウマル様の元に集まる筈…」

「直属…ですか。ふぅん…」


 何か考えている素振りのライは、辛うじて聴こえる声でライドウに囁く。


「密偵って領主にも付けるんですか?」

「何…?」

「後ろの護衛の中に何人か居ますよ?どうします?」


 ライドウは溜め息を吐いた。そして不快な気持ちを振り払う様に、やや大きめな声で答える。


「別に構わん。疚しき事など一つも無いからな。だが嘘の報告をする様な輩がいるならば、地の果てまで追い掛けてでも一族根絶やしにしてくれる。まあ、我が配下に限ってそれは無いと信じているさ」


 この言葉に反応した兵はいなかった。流石は密偵だけあり隠すのが上手い。

 だがライは、視覚纏装【流促】でハッキリと魔力の乱れを見抜いていた。


(まあ良いか…。ライドウさんが気にしないなら)


「王家以外では密偵を使いませんか?」

「使わぬ事はないが、それが領主の仕業と明らかになった際は領主同士の決闘になる。まあ、そもそも他の領土が手に入る訳ではないのだ。やる意味もないだろう」

「……ペトランズじゃ足の引っ張り合いに良くやりますよ?」

「ハッハッハ…ペトランズ大陸の国々も一枚岩ではない…か」


 国とはそういうものだろう…とライは思った。人が人を妬むのも、人が人を蹴落とすのも欲。しかし欲が無ければ人は発展しないことも、事実として理解していた。


「ともかく、魔王の台頭は危機的状況やも知れぬのだ。これも報告をさせて貰うが…」

「どうぞ。別に隠すことではない…いや、寧ろ知って貰うべきですよ」

「だが、魔物に関しては確かに変わらんな。土地に意味が有るのか…或いは気付いていないだけか…」


 不安要素が増えてしまったが、今はともかく城に帰るのが先。一行は少し粗い道を更に進む。


「そう言えば…魔物はともかく、盗賊とか出ないんですか?」

「盗賊…山賊の類いか?出ない訳ではないが、定期討伐を行っているからな。本当に盗賊行為があるならば、即殲滅だ。その為の調査部隊もある」

「徹底してますね」

「民を不安にさせる訳には行かぬからな。魔物よりも人の犯罪対策に力を入れておるよ。それは久遠国全てに言えることだろうが…」


 久遠国の長い歴史の中で、年間の魔物被害が、人の犯罪数より増えたことはないのだという。何時の世も人は愚かだなとライドウは語った。


「あと心配なのは天災、ですかね…」

「水害が多いな。自然が豊かなのは水のお陰だ。雨は恵みの反面、脅威でもある。作物被害や洪水、土砂…対策はしているのだが、こればかりはな…」

「見た感じディルナーチ…不知火領はかなり魔力が満ちてますから、精霊や聖獣に頼めば何とかなりません?」


 ペトランズでは割と一般的な方法だが、災害対策として領主が精霊や聖獣と契約することがある。

 聖獣は数が少ないが、聖域保護により協力を得ることが出来る。精霊は自我が弱いので、災害の多い土地に精霊を集める様手配し、魔術的な防災効果を高める手法だった。


「中々面白いな、それは…。ふぅむ、久遠国や新羅国は魔術師自体が少ない。魔石鉱山の数の少なさ。魔術による技術の低さ。共に魔術師が居ないことによる弊害とも言える」

「少しなら知識有りますけど、どうします?」

「いや…その辺りは結局、専門的に優れた者が居なければな…。多分運用が出来なかろう。それに…」


 丘の上…見渡す景色には自然が広がる。これこそが久遠国とライドウは胸を張った。


「もうずっと、自然と共に在るのだ。領民の生活の為発展は必要だが、自然との知恵比べも悪くはないと私は思う」

「そうですか…そうですね」

「まあ、知恵比べも領民に被害が出ない程度ではあるがな?」


 飽くまで人として自然と向き合う。人も自然の一部である以上、それと共に在るのだというのも悪いことではないのだろう。



 その後も久遠国の現状を知る為、ライは様々な質問を繰返す。ライドウは国の秘事とされること以外は丁寧に教えてくれた。


 そして分かったのは王家が敬われるだけの才覚を持つこと。そして領主の中には改革派がいることだ。



 改革派は開国を提言しているらしい。



「そういや何で鎖国してるんです?先刻聞き逃した様な…」

「ん?ん~…」

「以前は【黄泉人】の話しになりましたけど、アレって内部からの災害ですよね?」

「……実はあの時、外部から救いが来たと記されておってな。確か勇者バベルの仲間だったか?来訪したのは女勇者だったとか…」


 金髪の女勇者の来訪。当時の久遠王と新羅王は女勇者に惚れたらしい。


「…………」

「……ライ殿…白眼…」

「ハッ!え、えぇっと……それで?」

「化け物…【黄泉人】を力を合わせて倒した女勇者と王達だったのだが、久遠王と新羅王が女勇者を巡り争いを始めた…」

「……………」

「ライ殿……ヨダレ…」


 何か聞いたことがある話だと思えば、ディルナーチの国が別れた時の話に似ているのだ。


 女勇者の奪い合いは正式な【首賭け】ではないので、殴り合いだったらしい…。勝敗が決まる前に王二人は『こっぴどくフラれ』女勇者は帰っていったのだという。


「まさか…それで鎖国?う、嘘でしょ?」

「いや…ま、まあ、国が割れた際に続き二度目だからな…国外の女性に国を乱されたのは。名目としては…な」


 その時突然、馬車の中から響き渡る笑い声が…。


「ニャハハハハ~ッ!ヒィ~ッ!腹が捩れるぅ!ヒャハハハハ。ザマァ!」


 メトラペトラはしっかり聞いていたらしい。爆笑と共に馬車で転げ回る音が聴こえる…。

 まさか三百年経過して喧嘩友達に笑われるとは、当時の久遠王も思わなかったことだろう。


「それは…開国したがる人いるかも知れませんね…」

「うむ。…しかしな?開国したままでいればどうだったか…考えてみたことがある」

「それはどういう…?」

「事実として化け物…【黄泉人】による被害は尋常ではなかったと記されているのだ。恐らく、国外勢力に対抗出来ぬ程に…」

「確かにそれなら鎖国は理解出来ますけど…なら何故『フラれた』なんて話折り込むんでしょう?」


 ライドウはしばらく沈黙していたが、答えは出なかったらしい。


「わからん。ともかく判っていることは、『三百年前に鎖国された』事実のみ。開国に関しても王のご判断次第だ」

「ライドウさんはどう思ってます?」

「……ライ殿をみた限りでは良いのでは、と思うがな。しかし、国は生き物、そして魔物だ。開国となれば生活は一変する。国民がそれを望むかはまた別の話であろう?」

「確かに…そうですね」


 今は魔王台頭の時代。鎖国が功を奏しているから久遠国は平穏なのか…はたまた鎖国していることが後の危機に繋がるのか、誰にもわからない。


「あ!……一つ言い忘れてました」

「どうしたのだ、急に?」

「スズさん達を助けた海域の島なんですけど…アソコに三百年前の魔王が封印されていました。知ってましたか?」


 三百年前、ペトランズで猛威を振るった存在【魔王エイル】。存在を把握してはいても封印されていた場所までは知らない。

 それは当然だろう。バベルは意図して人のいない場所に封印したのだろうから。


 当然、ライドウの答えも同様だった。


「それは初耳だ…。しかし封印されているのだろう?」

「それなんですがね?俺…思わず解いちった!」

「…………………」

「ああっ!ライドウさんの顔中から汁がっ!」


 涙、鼻水、ヨダレ…ライドウは完全な放心状態だ。少し笑っているのが中々に気持ち悪い。


「ライドウさん!ライドウさん!」

「ハッ!私は一体…」


 懐から取り出した布で顔を拭うライドウ。更に兵の中に二人…明らかな動揺を見せる者がいるが、密偵とはいえ動揺を隠せないのは仕方あるまい。


「それでですね?魔王は…」

「あ~、聴こえない~。私は何も聞いていない~」

「ちょっ…ラ、ライドウさん?」

「むむ?アレは…ヒャッホウ~!ウサギちゃんだ!待てぇ~!」

「ライドウさん!くっ…逃げたな?哈ッ!」


 主に現実から逃げるライドウ。それを追う元凶勇者。護衛兵は馬車の護衛で動けない…。


 しばらく馬の速駆けをしていた二人が大人しくなるまで、半刻程の時を要したという…。



「だから魔王は解放しましたけど、もう魔王じゃなくなったんですよ。今は安定して国に帰りました」

「ライ殿…それを先に言ってくれないとな?ハッハッハ~」

「いや、聞かなかったでしょ?言う前に逃げたじゃないですか…」

「え?そうだった?」


 オトボケ領主様…。まあ原因はライにあるのだから仕方がないとも言える。


「くっ…ま、まあ良いですよ」

「そんなことよりライ殿!見えてきただろう?あれが我が城…白馬城だ。そしてあそこが不知火の中枢、紀里谷の街」


 近付き徐々に大きくなる城。街に入ると一気に異国感が増した…。

 街の造りはまず建物が違う。煉瓦や石組みではなく、その殆どか木造なのだ。


「へぇ~。凄いですね…木でここまで街を造るなんて…。材料が良く足りましたね?」

「自然に恵まれているからな。だが、植林などもして増やしているのだぞ?」

「成る程…それに活気もある…」


 あまりの珍しさにキョロキョロと視線を移すライだが、自分が注目を浴びていることに気付かない訳ではない。


 本来、領主と並び歩くのは身内か来賓客のみ。つまりライは領主の『お客様』なのだ。注目を浴びぬ方がおかしい。

 しかも良く見れば異国人であることもわかる。領主の手前人集りにはならないだけで、視線は集まっているのである。


「街は後で案内させよう。先ずは城に向かう。コテツ…嘉神領主からの認可状が届いているのか気になるからな」

「わかりました」


 衆目環視を浴びながら、一行は不知火領主の居城【白馬城】の門をくぐり抜ける。城は石垣、漆喰、瓦屋根…。ペトランズ大陸の城とは一線を画する構造だった。

 内部に入ると全て木造。百漣島にも有った竹細工や障子窓、畳と、暖かみのある造り。それが何階層にも組んである構造に感心するしかない…。


 そして最上階。襖を開ければそこが領主ライドウの部屋の筈だった。


 だが…そこに居たのは、やたらと派手な着物の若い男…。上座に座り立て肘を枕に横たわっている。



「リンドウ…貴様…」


 リンドウと呼ばれた若い男は、アクビを吐きながら身体を起し頭を掻いた。そして、ふてぶてしい笑みを浮かべライドウに応える。


「随分と変わったお客人をお連れですな、父上?」

「貴様…。領主の座たるその場に座る意味…わかっているのだろうな?」

「どうせ後には俺のものになるのですよ?ならば構わんでしょうに…」

「貴様は父に恥をかかせるか!それも客人の前で!」

「フン…異人如きに何故へつらう必要があるのです?馬鹿馬鹿しい…」


 鋭い眼光をライに向けたリンドウ。しかしライは全く相手にせずその場に座った。


「で、ライドウさん。嘉神領主の件ですが…」


 リンドウに一切目を合わせない完全無視。リンドウのこめかみには青筋が浮いている。が、全く気にしない。


「認可状があれば嘉神に向かわずに済むのでしょう?」

「た…確かにそうだが…」


 チラリと息子を見るライドウ。そのときリンドウは腰に差していた鉄扇を手にし、既に勢い良く投げ付けところだった。

 ライドウの反応が間に合わず鉄扇がライに直撃するかと思われた瞬間、鉄扇は忽然と消える…。文字通り跡形もない。


 驚いたのはリンドウだ。だが相変わらすライは完全無視。流石に苛立ち上座から腰を上げたと同時に、背後からリンドウは突き飛ばされる。


「なっ!……」


 振り向けば誰もいない。ただ…ライは笑っていた。


「テメェか…どんな手品使ったか知らねぇが、舐めてんじゃねぇぞ?あぁ?」


 丁度眼下に座るライの肩に触れたリンドウは、そのままライに手首を掴まれ宙を舞った。勢いそのままに盛大に畳に叩き付けられる。


「がはっ!」


 天井を見上げて寝転がるリンドウは、何が起こったのか分からない。


「ささ…領主様と奥方様は上座へ」

「う…うむ。済まぬな」


 呆気に取られていたライドウとスズは上座に移動した。しかし息子が投げ飛ばされた為、微妙な表情を浮かべている。


 一方のリンドウは完全に激昂していた。畳を叩きながら身体を起こし、刃に手をかける。


「止めんか!馬鹿者が!」

「うるせぇ!こんなに馬鹿にされて黙ってられるか!」


 ライドウの制止など意にも介さず叫ぶリンドウ。そこで初めてスズが声を上げる。


「いい加減にしなさい、リンドウ!始めに無礼を働いたのはあなたの方ですよ?少しは恥を知りなさい」

「母上…。くっ…いいや!俺は間違っちゃいねぇ!親父は外国と手を結び久遠国を乗っ取る気なんだろ?そんな不義理…赦せねぇ…」

「……何を言っとるんだ、お前は?何故そうなる?」

「うるせぇ!裏切り者と話すことなど無ぇ!」


 そこでライは盛大に笑った。


「テメェ…何がおかしい!」

「いやいや。ただのバカ息子かと思ったら、そうでもない様なんで…つい。ライドウさん。どうもリンドウ君は勘違いしている様ですね。だけど頭に血が昇って話にならない」

「勘違いだと…?それは一体…」

「いや。その前に頭の血を下げないと。この辺で手合わせ出来る場所ってありますかね?」

「城の敷地内で訓練場は有るが…だが…」


 同行を頼んでおきながら息子の無礼。ライドウにはこれ以上無い恥の上塗りになる。本来なら諌めるのは父の役目なのだ。

 だが、そのライドウが疑われていては話にならない。たからライは役割を買って出た。


「大丈夫ですよ。それで納得するかはわかりませんが、気は晴れるでしょう?少なくとも落ち着くとは思いますし」


 ライドウはスズと目を合わせ諦める様に頷いた。


「…わかった。では案内しよう。それで良いな?リンドウ」

「おもしれぇ。だが、客人が死んでも文句言うなよ?」


 溜め息を吐き首を振るのはライドウ、スズ、そして真似をしているリルである。リンドウは再びこめかみに血管を浮かべていた。




 そんなリンドウはこの後、別次元というものを知ることになる…。





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